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[1]“撮影所”以後の挑戦的プロデューサー

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 東京・シネマヴェーラ渋谷で、ルビッチ特集に続いて伊地智啓(いじち・けい)プロデュース作品が特集上映されている(~6月5日)。これまた、ある年代以上の映画好きなら狂喜するような大事件だ。

伊地智啓伊地智啓
 と同時に、伊地智の名を知らない若い映画ファンも、未知の衝撃に見舞われるにちがいない貴重な特集である。

 そこでまず、日本の映画産業が衰退期にさしかかる1960年代以降、名プロデューサーとして“映画の荒野"を力走した伊地智啓(1936~)のプロフィールを手短に紹介しよう(次回以降は、先ごろ上梓された伊地智の著書『映画の荒野を走れ――プロデューサー始末半世紀』、および本特集における必見中の必見作を紹介する予定)。

 1960年、石原裕次郎が人気絶頂だった日活撮影所に、伊地智は――女優・吉永小百合と同期で――助監督として入社する(本特集で上映される彼の助監督作品は、『反逆のメロディー』<澤田幸弘、1970>、『八月の濡れた砂』<藤田敏八、1971>)。

 日活が従来のアクション映画と青春映画から一転、ロマンポルノ路線に方向転換した1971年、伊地智はプロデューサーに転進、同年『花芯の誘い』(小沼勝)で初めて「企画」としてクレジットされる。

 傑作『わたしのSEX白書 絶頂度』(曽根中生、1976)などの、数々のロマンポルノを

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