2015年05月29日
伊地智啓がキティ・フィルムで製作した『太陽を盗んだ男』(長谷川和彦監督、1979)は、原爆を作って日本政府を脅迫する中学教師のお話だ。
文字どおり、奇想天外な破格の傑作である。147分の長尺だが、片時も画面から目を離せない。もちろん、奇想天外な物語をハイレベルな映画に仕上げることは、とてつもなくハードルが高い。失敗例は掃いて捨てるほどある。
そしてまた、その他のスタッフ、キャストらが持てる力を十全に発揮したからでもある。
要するに、それらすべてが稀有な化学反応を起こしたわけだ(これはまあ、本作にかぎらず、傑作の名に値するほとんどの映画に共通することだが。なお以下、部分的なネタバレあり)。
――中学校の理科教師、沢田研二扮する城戸誠(きど・まこと)は、茨城県東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み、アパートの自室で原子爆弾を完成させる。
城戸はその自家製の原爆によって国家を脅迫するが、彼が交渉相手に名指ししたのは、警視庁捜査一課の山下警部(菅原文太)だ。山下は、城戸のプルトニウム強奪に先だって描かれる出来事、すなわち城戸が生徒らを引率しての見学旅行中に遭遇したバスジャック事件を、体を張って解決したタフな鬼警部だった……。
こうした前半部だけでも、観客はいくつものヤマ場に波状攻撃され、息もつけないほどだ。ただし、そこで展開されるのは、けっして"血沸き肉踊る"大活劇ではない(ド迫力の大活劇、パニック・シーンは終盤で炸裂)。警察の狙撃手によるバスジャック犯射殺も、活劇感マックスではない。
では、前半における最も注目すべき描写のポイントは何か――。
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