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 薬師丸ひろ子主演の『セーラー服と機関銃』(1981)は、キティ・フィルムを拠点にしていた伊地智啓が、角川春樹事務所と提携してプロデュースし、相米慎二がメガフォンを取った「アイドル映画」の傑作である(原作は赤川次郎の同名小説)。

1981年12月20日朝、東映配給の青春映画「セーラー服と機関銃」を上映中の大阪、京都の3映画館に中、高生らのファンが殺到。写真は「上映中止」騒ぎにまでなった梅田東映劇場前の大混雑 拡大『セーラー服と機関銃』を上映する映画館に中、高生のファンが殺到、「上映中止」騒ぎになった=1981年12月20日、大阪・梅田東映劇場前
 配給収入23億円超を記録し、81年度公開日本映画の興行収入トップの座に輝いた本作は、角川映画と呼んでも間違いではない。

 がしかし、製作はあくまで伊地智啓率いるキティ・フィルムであり、角川は製作費の半分を出したが、事実上宣伝を担当したのみで、映画の製作プロセスや内容にはクレームをつけなかったという。

 プロデューサー伊地智啓の才腕をうかがわせるエピソードだが、今回シネマヴェーラ渋谷で上映されたのは、初公開時の112分版より長い130分の「完璧版」(82)である(以下、部分的ネタバレあり)。

 ――女子高校生、星泉(ほし・いずみ:薬師丸ひろ子)は、ひょんなことから、急死したヤクザの親分の跡目を継ぐことになる。泉が4代目の組長を襲名したのは、組員が4人だけの弱小組織、目高組だったが、彼女は以後、組頭の佐久間(渡瀬恒彦)らとともに、敵対する組織に命がけの闘いを挑んでいく。

『セーラー服と機関銃』=提供・京都文化博物館 拡大『セーラー服と機関銃』=提供・京都文化博物館
 まず、目高組・組員のヒコ(林家しん平)が殺され、新組長の泉は対立する松の木組に単身乗りこむが、その組はヒコ殺しとは無関係だった。

 泉はやがて、消えたヘロインをめぐって、大物ヤクザの「太っちょ」(本名は三大寺一:三國連太郎)が暗躍していること、自分の父がヘロインの密輸入に関わって殺されたこと、自分に近づいてきたマユミという女(風祭ゆき)が、「太っちょ」の娘であり、父の元愛人であったことなどを知る。

 そんななか、地域一帯をとりしきる浜口(北村和夫)の邸で泉は彼に襲われそうになったり、目の前で、気のいい子分の明(メイ:酒井敏也)を「太っちょ」の部下・萩原(寺田農)によってむざむざと射殺されたり、はたまた「太っちょ」のアジトで拷問されたりする。

 しかし、窮地をなんとか切り抜けた泉は、組員らを従え、ヘロインを手中に収めた浜口組に殴りこみをかけ、機関銃を乱射し、「カイ・カン」というセリフを微笑みながら口にする(このクライマックスのあとも、印象的な場面がつづく)。

 ……このような、ほぼ原作どおりの、普通の女子高生がヤクザの組長になるという風変わりな物語を、相米慎二は、彼の「登録商標」ともいうべきカメラの長回しを多用し、スクリーンに力強く生動させていく。

 むろん、薬師丸ひろ子という得難い「アイドル」の身体を巧みにコントロールしつつ、なおかつ、コントロールを超えたところに現れる彼女の魅力をも撮りおさえることによって、である。

 こうした相米演出について、伊地智啓はこう言う――「役者が役になりきるだけじゃなくて、なりきった先の、もうひとつステップを踏みこんだ先に出てくるもの、それこそが[……]役者の役割であり、そこへ向けて動いていくのが演出家なんだと。[それが『翔んだカップル』と本作において]薬師丸で経験した相米の映画観っていうか、映画の手触り[である]」、と(前掲『映画の荒野を走れ――プロデューサー始末半世紀』、182頁)。

 要するに『セーラー服』は、大ヒットした「アイドル映画」であると同時に、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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