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 長回しのロングショットという手法を、『セーラー服と機関銃』で確立した相米慎二。

 彼はその手法を、超傑作『ションベン・ライダー』(1983)でさらに過激に追求したが、映画史上ほとんど類例のないような、あと一歩で映画が映画でなくなる限界点に触れてしまった映画、――とりあえずそんな言葉を発するしかない、文字どおり革命的なフィルムである(キティ・フィルム製作、DVDあり)。

 もっとも『ションベン・ライダー』の物語は、いくぶん風変わりではあれ、『太陽を盗んだ男』(長谷川和彦)のそれのように、とてつもなく奇想天外なわけではない。

「ションベン・ライダー」.拡大『ションベン・ライダー』
 これから見るように、この映画では、物語の描き方、撮り方自体が、ともすれば物語を解体しかねないように作用し、またそれが、本作の最大の魅力となっているのだ。

 ――中学生の3人組、ジョジョ(永瀬正敏)、辞書(坂上忍)、ブルース(河合美智子:女だが男だと言い張っている)は、いつもガキ大将の肥満児・デブナガ(鈴木吉和)にいじめられていた。

 変てこなニックネームで呼びあう彼らの本名は、ジョジョが川崎讓、辞書が中村正司、ブルースが河合美智子(俳優名と同じ)、デブナガが出口信長であるが、さて、3人がデブナガに仕返ししようとしていた矢先、彼らの目の前で、くだんのガキ大将が横浜の暴力団・極龍会の組員――山(桑名将大)、政(木之元亮)ら――に誘拐されてしまう。父親(前田武彦)が覚醒剤の密売に関わっていたため、デブナガはさらわれたのだった。

 デブナガを救い出そうとジョジョら3人は、誘拐事件を起こした山と政の始末を親分から命じられていた昔気質のヤクザ、厳兵(ごんべい:藤竜也)に接近。こうして3人は、→横浜→熱海→名古屋→大阪→横浜と場所を一巡するが、その途中、ヤクザ同士の抗争に巻きこまれた彼らの夏休みは、担任のアラレ先生(原日出子)も加えて波乱万丈の大冒険となる……。

 このように『ションベン・ライダー』には、込み入ってはいるが、3人組によるデブナガ救出劇というプロットが軸として存在する。

 しかし前述のように、この映画のいちばんの凄さは、そうしたプロットから危うく脱線しそうになる、いくつもの場面の<迷走>ぶりを、相米独特の長回しが縦横無尽に描き出す点にある。

 そして、そうした<迷走>を引き起こすのは、登場人物たちの、とりわけ少年少女らの、予測不能で意味不明な危なっかしい身体運動だ。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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