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[2]冷静な実業家でもあった「市民カンヌ」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 ジャコブは映画祭の経営手腕も一流であった。カンヌが世界一の映画祭へと歩むきっかけとなったのは、1983年のメイン会場「パレ・デ・フェスティバル」のオープンだろう。

座席数2300を誇るメイン会場パレ・デ・フェスティバル座席数2300を誇るメイン会場パレ・デ・フェスティバル (c) FDC / L.Fauquembergue
 それまでも一応、メイン会場に入る直前のスターをカメラが追いかけてはいたが、単にスターを至近距離から撮るばかりで、スターを美しく「魅せる」ための演出はお膳立てできていなかった。

 だが、「栄光の24段」と呼ばれる階段付きの新会場ができ、さらに1987年からはその上に深紅の「レッドカーペット」が敷かれると、ドレスアップしたスターや監督が、周囲を意識して手をふったり、カメラに向かってしっかりポーズをするようになったのだ。

 ジャコブはこのカンヌの風物詩となる光景を、印象的に紹介できるテレビや雑誌といったメディアの力を最大限に利用した。これが映画祭が発展する大きなステップになったことは疑いないだろう。

夜の公式上映は正装が義務だカンヌを彩る「レッドカーペット」。夜の公式上映は正装が義務だ (c) FDC / C. Duchène
 有料放送最大手のテレビ局カナル・プリュスは、カンヌのオフィシャルパートナーとして存在感を発揮し、今年2015年で22年目に突入した。

 カナル・プリュスはカンヌ映画祭の開会式や授賞式などを独占放送できるなど、現在もカンヌと蜜月関係を築いている。この独占放映権は高額で、カンヌ映画祭の予算を潤すのに十分だと囁かれている。

 メディア以外のオフィシャルパートナーとしては、パートナー歴35年のエールフランス、32年のルノー、30年以上のジャック・デッサンジュ(ヘアメイク)、25年のネスレ、18年のショパール社(宝飾)、17年のロレアル社、10年のオランジュ(電気通信事業)などがある。

 これらの一流企業が、巨大化を続けるカンヌ映画祭を、物資や資金面でしっかりサポートしている。とりわけジャコブがプレジデントに就任した2000年以降、「カンヌはスポンサーとの関係が強すぎる」と揶揄されることも多くなった

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