2015年08月14日
『絶歌』において、Aが殺人にいたる経緯の記述は、2部構成の本書(約290頁)の第一部の前半でヤマ場を迎える。
そこでは、Aの関東医療少年院送致を言い渡した、元神戸家裁少年部判事・井垣康弘による「家裁審判<決定>全文」(「文藝春秋」2015年5月号所収)には記載されていないことも、「重大な秘密」として打ち明けられる。
すなわち、猫を殺し解剖する行為によって、射精をともなう性的興奮・快感を得る――いわゆる性的サディズムの発症――以前に、すでに最愛の祖母の死後まもなく、祖母の使っていた電気按摩器(でんきあんまき)で自慰を初体験したことを、Aは克明だが少々気負った、高揚した語調で――「文学的」な表現をまじえて――、こう書く。
「僕は、本当はナメクジやカエルを解剖し始める前に、精通を経験した。そのことだけは死ぬまで誰にも話さないつもりだった。でもこうして祖母のことを思い返しているうち、このエピソードを省いて自らの物語を語る意味などないように思えた。/罪悪とはマトリョ―シカ人形のようなもの、どんなに大きな罪も、その下にはひとまわり小さな罪が隠され、その下にはさらにもうひとまわり小さな罪が隠され、それが幾重(いくえ)にも重なった「入れ子構造」になっている。僕が抱える“罪悪のマトリョ―シカ”のいちばん奥に隠された小さな小さな罪の原型を、ここに懺悔(ざんげ)したい」(46頁)。
たしかにここには、「最奥(さいおう)の秘密」を告白するに際しての、やや大仰な「文学的」レトリックが過剰だ(Aの愛読した三島由紀夫の装飾的な文体を模倣したようなマトリョーシカ人形の喩えは、「若書き」特有のペダンチック(衒学的)なものとはいえ、なかなか善戦しているが)。
ともあれ、本書を「自己陶酔的な私小説」と批判し、もっと精度の高い・内省を深めた手記に書き直せ、と
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