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[9]VOCALOIDと演歌が出会うとき

夏川りみ、井上苑子、小林幸子とSachiko……

太田省一 社会学者

 歌というものにはやはり独特の力がある、と思わされることがある。

 例えば、2015年8月22日から放送された日本テレビ系『24時間TV 愛は地球を救う』でたまたま聴いた夏川りみの『涙そうそう』に私は感動した。それは、歌詞の一節から何か個人的な感傷に浸ったとかではなく、彼女の歌声そのものの持つ力に心を動かされたという感覚だった。

 ネットの世界でも、歌の持つ力の大きさを感じる場面は少なくない。

 最近注目を浴びているシンガーソングライターに、17歳の井上苑子がいる。11歳から路上ライブをやっていたという彼女は、その後若くして有名ライブハウスでのワンマンライブを成功させるなど一部ではすでに知られた存在だった。

 だがそんな彼女を一躍有名にしたのは、無料配信サービスのツイットキャスティング、通称「ツイキャス」だった。

 ツイキャスは、スマホなどがあれば誰でも生中継できる手軽さが受けて、中高生など若い世代を中心に利用者を増やしている。2010年にサービス開始以来、2015年4月には登録ユーザー数が1000万人を突破した

 配信される内容はさまざまだが、そのなかには歌を披露するユーザーもかなりいる。井上苑子もそのひとりだ。彼女は、視聴者からのコメントに返答したり、リクエストに応えてギターの弾き語りをしたりする生配信を不定期に行ってきた (注:このリンクは生配信を録画したもの)。

 そこでの歌が評判となり、数年前に始めた配信の総視聴者数は半年で100万人を超え、その人気がきっかけになって2015年7月にはついにメジャーデビューを果たした。

 このケースは、かつて1970年代にフォーク歌手がラジオの深夜放送を通じて若者たちから熱狂的に支持されたことを思い起こさせる。

 彼女の場合は、それに映像が付いてライブ中継の要素も加わったかたちだ。この連載でも何度か述べてきたように、「絵付きラジオ」としてのネット動画の特性が最大限に生かされた好例と言えるだろう。

肉声とVOCALOIDの区別

 また、ネットと歌ということではニコニコ動画の「歌ってみた」動画も当然忘れるわけにはいかない。

 人気の「歌い手」も今や多数存在する。そのスタイルは実に多様だ。カラオケに乗せて歌う歌い手もいれば、自らの演奏で歌う歌い手もいる。真面目に歌い上げる歌い手もいれば、替え歌を中心にネタに走る歌い手もいる。

 だが、例えば200万回以上の再生を誇るこの動画などのように、ユーザーの支持を集める曲には、VOCALOID用につくられたいわゆるボカロ曲を歌ったものが多い。

 VOCALOIDについては、生身の人間が歌う歌とは別物と考える人もまだまだ多いだろう。VOCALOIDはあくまで合成された人工的音声であり、生身の人間の肉声とは似て非なるものである、というわけだ。

 だが一方で、カラオケで歌われる人気定番曲のなかに ・・・ログインして読む
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筆者

太田省一

太田省一(おおた・しょういち) 社会学者

1960年、富山県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなどメディア、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。著書に『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論――南沙織から初音ミク、AKB48まで』(いずれも筑摩書房)、『社会は笑う・増補版――ボケとツッコミの人間関係』、『中居正広という生き方』(いずれも青弓社)。最新刊は『SMAPと平成ニッポン――不安の時代のエンターテインメント 』(光文社新書)、『ジャニーズの正体――エンターテインメントの戦後史』(双葉社)。

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