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「なんでもあり」だったベネチア映画祭(上)

どの映画も抵抗感だらけ

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 9月18日の「朝日新聞」朝刊と夕刊のベネチア国際映画祭報告を見て、驚いた。私も今年のベネチアに参加してその報告は前日の「読売新聞」朝刊に書いたけれど、まるで別の映画祭のように見える。

 ここでは「読売」に書ききれなかったことも含めて、今年のベネチアの傾向を書きつつ、「朝日」報告の問題点を指摘したい。それは、かつてここで書いた「新聞の『映画面』をもっと活性化させるために」とも通じる。

記者会見でセレクションを説明するアルベルト・バルベラ(右=撮影・筆者)記者会見でセレクションを説明するアルベルト・バルベラ(右)=撮影・筆者
 今年はコンペなどの公式部門に日本映画が出なかった。公式部門どころか批評家週間や監督週間にも出ていない。

 コンペに日本映画が出なかったのは2001年以来のことである。「朝日」はそのことは1行も触れていないが、2人の日本人がまるでコンペで賞でも取ったかのように大きく扱われていた。

 「朝日」記事の問題については主として(下)で触れることにして、まずは今年のコンペの傾向を見てみよう。

 昔からベネチアは、商業主義のカンヌ、社会性の強いベルリンに比べて、芸術性の高さを売り物にしてきた。

 2度目の就任で、今年で4年目を迎えたアルベルト・バルベラ(65)は、その伝統をさらに推し進めたようなコンペのラインナップを揃えた。

常連のベテランと新しい才能の対決

 一言で言えば、普通の映画は1本もない。相当に悪趣味な

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