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[9]舞台裏に「アメリカ文化対ヨーロッパ文化」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 ここからは新しく生まれ変わったカンヌ映画祭の「今後」を予想したい。

 まず2015年の映画祭で観察できた、お祭り男ピエール・レスキュールによる「スポンサーと協同して映画祭を盛り上げようとする姿勢」は、今後も続行されるだろう。

 これは表面的には、前会長ジル・ジャコブが敷いてきた現実路線の発展的な継承だろう。

 だがよくよく考えると、これはレスキュールの意志というよりは、むしろレスキュールを新会長に選んだ時点で、映画祭として「今後も積極的に発展路線を目指していく」という意志表明であったと思われる。

 そう思えるのも新会長選出の裏には、なかなか象徴的な選出劇があったからだ。

 当然ながら、世界最高峰の映画祭であるカンヌの新会長という名誉の椅子は、国内の多くの業界関係者が狙っていた。

仏独が共同運営するテレビ局アルテのサイト仏独が共同運営するテレビ局アルテのサイト
 ジャコブの引退表明後に数々の会長候補の名がまことしやかに流れる中、レスキュールと並んで新会長最有力候補と目されていたがのが、独仏共同出資のテレビ局アルテの創設者であるジェローム・クレマン。

多文化の紹介役

 彼はこれまた、レスキュールとはあらゆる意味で対照的な人物だ。まず性格そのものが派手めなレスキュールに対し、彼は影で力を発揮する堅実派タイプ。

 だが最も決定的な違いは、彼こそがこの30年来、アメリカ文化隆盛の波を受ける欧州文化を守るべく、多文化奨励に尽力してきた人物だったということ。

 彼は

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