横田由美子(よこた・ゆみこ) ジャーナリスト
1996年、青山学院大学卒。雑誌、新聞等で政界や官界をテーマにした記事を執筆、講演している。2009年4月~10年2月まで「ニュースの深層」サブキャスター。著書に『ヒラリーをさがせ!』(文春新書)、『官僚村生活白書』(新潮社)など。IT企業の代表取締役を経て、2015年2月、合同会社マグノリアを設立。代表社員に就任。女性のためのキャリアアップサイト「Mulan」を運営する。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
8月に「不妊治療」に振り回されるアラフォーカップルたちの話や、高校からの保健教育の充実をはかる大切さについて、当欄で書かせていただいた。
世界一の不妊大国ニッポン、「妊活」のリアル――妊活セールス、エージェント……不妊産業の「死角」
様々な意見を間接・直接に頂戴し、また、切実な感想が多かったので、今後はより不妊に悩むカップルの心情に寄り添いながら、行政の取り組みや世界の潮流などを伝えていければと思う。
そんな中、俳優の福山雅治さんが、同じく俳優の吹石一恵さんとの結婚を発表し、筆者を含めた世の女性たちを大いに嘆かせるニュースが飛び込んできた。
だが、ショックを受ける間もなく、さらにショッキングなニュースが飛び込んできたのだ。福山さんの結婚報道を受けて、菅義偉官房長官が、
「本当に良かったですよね。結婚を機に、やはりママさんたちが、一緒に子どもを産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれればいいなと思っています。たくさん産んでください」
と、働く女性の現状から乖離した、非常に心ない発言をしたのだ。
まさに、戦中の「産めよ、育てよ」を彷彿させる発言で、なぜ日本が「世界一の不妊大国」と称されるほどの「少子化」を招いてしまったのか、環境や背景を全く理解していないのではと訝(いぶか)しられても仕方のない言葉だったと思う。安倍政権の掲げる「女性の輝く社会」がかけ声倒れだということを、こうも見事に体現してくれるとは呆れるほかはない。
それ以上に、菅官房長官の発言は、少なくない数の女性を傷つけたと思う。今、不妊治療で悩んでいるカップルがどれだけいるのか、それこそ国を挙げて調査した方がいいのではなかろうか。
30代後半の女性から、私は、記事に対してこんな感想を貰っている。
「毎日が孤独です。仲のいい友人が不妊治療をしていたら、悩みも共有できるのでしょうが、みな子どもがいて、お受験の話などで盛り上がっている。自分だけ取り残された気になるので、集まりに行かなくなりました。ネットの不妊治療ブログや掲示板が、今の私には唯一の外界とのコミュニケーションの場。ここでしか、本音を話すことはできないし、悩みも打ち明けられない」
彼女は、お正月が大嫌いだという。子どもの写真が載った「幸せな家族の年賀状」が大量に届くからだ。一枚、一枚見るたびに、自分が「欠陥品」に思えるのだという。
だが、掲示板で悩みを共有した、いわば「ベビ待ち戦友」から妊娠報告が入った時は、素直に喜べるのだと話した。
また、40代後半の男性は、自分たち夫婦の不妊治療時代をこう振り返っている。
「ちょうど40歳を過ぎたころから、学生時代の友人なんかと飲みに行くと、必ず『不妊治療』の話になった。みんな似たような状態で、嫁さんの必死な姿を日々目の当たりにしているから、安易に『止めよう』とは言えないと話していた。僕たちにも、授かれるものなら授かりたいという気持ちもあるわけですし……。
ただ、僕は途中から『無理だろう』ということはわかっていた。人工授精も、体外受精もやりましたが、何度も妻は流産した。
それでも、彼女が諦めの境地に達するまでは、僕からは『終わりにしよう』とは言えなかった。彼女が自分を責め、あらゆる努力をしていたのを間近で見ていたからです。その頃は、家に帰るのが辛かったですね」
この夫婦が、「不妊治療を終焉させること」が出来たのは、妻が45歳を過ぎてからだという。一般的な年齢よりかなり早く、更年期障害になった。しかし、それで妻は、ようやく「残りの人生を二人で過ごしていく」踏ん切りをつけることができたのだ。
なぜ、「子どもが出来ないこと」によって、夫婦がここまで精神的に追い詰められてしまうのだろうか。
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