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必見! 草野なつかの『螺旋銀河』(上)

恐るべき新人監督の登場

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 73分の『螺旋銀河(らせんぎんが)』を観て、その素晴らしさに圧倒された。草野なつか監督の長編デビュー作だが、チラシの惹句、「映画界にまたひとり、新たな才能があらわれた」は、けっして誇張ではない。

 お話は、どこにでもあるような日常的なドラマで、外見も性格も対照的な二人の若い女性が、共同でラジオドラマの脚本を書いていく、というものだ。そして、英語のサブタイトル、<antonym:対義語・対照・対比>が示すように、対(つい)として向き合う二人は、同調や協力よりもズレや齟齬(そご)を生む間柄になる。

螺旋銀河拡大『螺旋銀河』

 草野なつかは、そんな二人のあいだに波立つ葛藤、および彼女らの“関係の力学”――たとえば力関係の変化など――を、精度の高いショットの連続で綴っていく。

唐突な力関係の変転

 また彼女らの友情の機微も、じつに細心な手つきで描かれる。さらに、二人の共通の“知り合い”である青年が登場するに及んで、映画は虚と実が反転し合うような不思議な様相を見せはじめ、観客はまさしく“螺旋銀河”めいた世界に引き込まれていく(以下、部分的なネタバレあり)。

草野なつか監督拡大草野なつか監督
――シナリオ学校に通う美人の綾(石坂友里)の脚本が、課題のラジオドラマに選ばれる。

 だが綾は指導教師から、きみの原稿は独りよがりで他者が不在、きみには自分しか見えていない、と手厳しく評され、放送の条件として共同執筆者を立てることを告げられる。

 我の強い綾は心穏やかではなかったが、やむなく共同のライターを探し始める。ほどなく綾は、偶然言葉を交わした、地味でおとなしそうな会社の同僚・幸子(澁谷麻美)に目をつける。

 自己中な綾は、幸子なら自分の思い通りになると踏んだのだ。いっぽう幸子は、綾のルックスの良さに対する、恋愛感情にも似た憧れから、綾と共に脚本を書くことを引き受ける。

 ところがやがて、幸子は教師を前にして、綾の原稿には重力が欠けていると意見し、コインランドリーを舞台にしてはどうか、と自分のアイデアを提案する。

 すると教師は、即座に幸子の着想に感心し、よし、それで行こうと言う(このあたりの<早い>展開も冴える)。当然、同席していた綾は、自尊心を傷つけられ動揺する(不意打ち的なこの場面から、がぜんドラマに弾みがつく)。

 ここへ来て、まさか脚本に関して自己主張などすまいと、綾が見くびっていた幸子が、積極的にアイデアを出し、それが教師に認められ、綾は幸子に優位を奪われるのだ。

 二人のあいだには主従の逆転とは言えないまでも、唐突な力関係の変転が起こり、観客は画面から目が離せなくなる。

意表をつく展開とデリケートな語り口

 いきおい、この場面を境に、それまで綾の脇に回っていた幸子/澁谷麻美の存在が、にわかに

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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