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[10]中国も視野へ、拡大路線の未来地図

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 前項で見てきた通り、カンヌ映画祭はレスキュール会長を意図的に選出した。

 それはカンヌ映画祭が多文化や作家映画に繊細な目を注げるクレマンより、あらゆる業界に顔がきき、ダイナミックな交渉力もお手の物、大国との関係を深めながら国際映画祭を盛り上げることができそうなレスキュールを欲したと言えそうだ。

国際的なスターを呼ぶことで、メディアの注目を集める© FDC C. Duchène国際的なスターを呼ぶことで、カンヌはメディアの注目を集めてきた  (c) FDC C. Duchène
 カンヌ映画祭は、「もうこの時代、質の高い映画の上映が映画祭の注目につながるわけではない。スターを引っ張ってきたり、話題のイベントを用意することでメディアに注目される話題を打ち上げないと映画祭の未来はない」ということに自覚的だ。

 まずは “世界一の映画祭”という立派な城を築き、そのオーラの中で作家映画を有機的に紹介していくという現実路線を取っているのだ。

 この現実路線は、ジル・ジャコブが会長に就任した2001年頃から始まっている。

 そして実際、ジャコブがティエリー・フレモーにディレクター職のバトンを受け渡す際には、積極的にアメリカとのパイプを築いていくことを強く求めた。

 その要請を受けたフレモーは、今も年に3度はハリウッドに渡ってメジャー会社の重鎮と顔をつなぎ、いち早く新作の情報を得るようにしている。

アメリカとの関係強化へ

 こうしてとりわけ2000年代以降、カンヌ映画祭においてはアメリカ映画やハリウッドスターの存在感が増してきたと言われる。

 ちなみに、奇妙に思えるかもしないが、アメリカ好きのレスキュールが加わった2015年のカンヌ映画祭だが、蓋を開けたら、意外にもアメリカ映画の紹介は少なめな年であった。

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