大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主
1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
企業とコンプライアンス、そして公(おおやけ)
それにしても空気の伝播力の何と凄まじいことか。読むとか読まないのレベルの話ではない。SARS(重症急性呼吸器症候群)かエボラ熱のごとく、たちまち世間に蔓延してしまう。
ちょっとだけ振り返ってみても、まず実感として嫌な雰囲気が露呈しはじめたのが2014年の3月。上野千鶴子さんの山梨市民講演会に市長が物言いをつけたあたりからだ。
これは中止が撤回されて無事行われたが、7月にはさいたま市大宮区の公民館で発行している月報に憲法九条を詠んだ句が掲載拒否された。
今年(2015年)7月、会田誠さんが、作品を展示している東京都現代美術館から撤去の要請を受けた。
会田誠一家作品の撤去を要請した美術館に物申す――権力をからかった程度で「過剰反応」(WEBRONZA)
そして最近の立教大学の「安全保障関連法に反対する学者の会」と「SEALDs」のシンポジウムの会場使用不許可まで、ほぼ1年半の間にこの種の話をいくつ聞いたことだろう。
それゆえにMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店が一部からの批判を受け「自由と民主主義のための必読書50」というフェアを中断したという報道に触れて「またか……」と嘆くのは、いともたやすいことだろう。
「ジュンク堂、だらしないぞ!」と憤ったとして詮なくもない。
けれどもそれでは、猛威をふるうウイルスの本質は掴めない。
いったい現場ではいま、何が起こっているのか。限りなくそこに意識を降ろして考えてみなければならない。すると三つのキーワードが浮かんでくる。すなわち、企業とコンプライアンス、そして公(おおやけ)ということである。
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