書店は本と本、本と人、人と人の「交戦」の現場
2015年11月10日
起こっていたのは、おそらく書店の日常からさして隔たっていない出来事だったのだろう。本という商品の特性から必然的に起こる軋轢が、普段よりも見えやすい形になっただけだと思う。
日本国憲法 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
本という商品には、憲法のこの条文の後ろ盾がある。
誰しも、自分の意見を述べ、それを出版して世に問う権利を保障されている。憲法が権力の暴走を押しとどめるために存在することを思えば、時の政府の方針に反対する意見を述べる自由は、この条文に特に親和性があると言える。
それこそ「出版の自由」なのだ。一冊一冊の本は、それぞれが共感と反発の両方を生み出す。
万人が共感する出版物には、存在理由はない。誰をも、何をも更(か)えることがないからだ。
それらの本から選び取り、書店の一角に集めて展示するのが、ブックフェアである。
その作業の中に、時に明確な意図をもって、時に無意識のうちに、書店員の価値観は滲み出てくる。
それに対して、共感もあれば、反発もあるだろう。反発が昂じれば、糾弾に至ることもある。10月、MARUZEN & ジュンク堂渋谷店で起きたのは、想定外の出来事ではない。
ブックフェアは、書店員の表現行為である。憲法第二十一条は、「一切の表現の自由は、これを保障する」と言い切っている。
一方、他者の表現行為に対する批判もまた一つの表現だから、憲法第二十一条に保障されているものだ。
そして批判は、価値観の相違の結果であることが多いから、批判された側がすぐに批判を受け入れることはほとんど無い。「一切の表現の自由は、これを保障する」という宣言は、表現同士の「交戦」を認めるということである。
今回の出来事で残念なことがあったとすれば、
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