赤坂英人(あかさか・ひでと) 美術評論家、ライター
1953年、北海道生まれ。早稲田大学卒業。『朝日ジャーナル』編集部勤務を経てフリーライターとして独立。新聞、雑誌に現代美術、現代写真を中心にして、カルチャーに関する記事を執筆。監督映像作品に『森山大道 in Paris』、企画・編集書に『昼の学校 夜の学校』(森山大道著、平凡社) 、『昼の学校 夜の学校+(プラス)』(森山大道著、平凡社ライブラリー)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
赤瀬川原平さんが、夢のなかに現れてしまった。これは夢だとは思ったが、やはり焦った。
彼は飄々した雰囲気で、私に向かって何かを語ってくれたのだが、声は聞こえない。ただ、表情からニュアンスが伝わってきた。こんなことを語っているようだった。
「僕のことについて書かれているようですが、僕は何を書いてくださっても構いません。自由に思ったことをお書きになってください。ただ、前回書かれていたことについては、少しだけ気になったところがあったので、余計なお世話だとは思ったのですが、一言お伝えしようと思ったのです。
それは例の千円札のことです。僕の千円札の作品や裁判のことに関して、『老人力』の“ソ連崩壊と趣味の関係”の章で書いた挫折ということと結び付けて書かれていましたが、そこは少し違うかなと。
確かに、千円札の裁判は、ハイレッド・センターの高松次郎や中西夏之との会話のなかにも出てくる通り、大変でしたし、いろいろと鍛えられたのは事実です。そして裁判は、最高裁までいきましたが、結局は、僕は有罪となりました。
それは確かに悔しいことです。しかし、そのことで僕が挫折を感じたのではないかというのは、ちょっと違うんです。あの霞が関の法廷で、僕らが日頃考えているような芸術が、簡単に通用するとは、さすがに思っていませんでした。
ですから、裁判結果はたいへん残念なものでしたが、挫折という言葉を持ってくるのは少しオーバーかと思います。僕という人間は、それほどヤワではないんですよ」
およそそんなことを語って、彼はふっと消えた。僕は夢から覚めてから、