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必見! 黒沢清の『岸辺の旅』(上)

幽霊たちのセンチメンタルジャーニー

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

哀切な傑作メロドラマ

 死者が束の間この世を訪れ、生前縁の深かった者と交流する。『岸辺の旅』で黒沢清監督が描くのは、そんな不思議で切ない物語だ。

 が、死者はこの世によみがえるのではない。あくまで死者のまま、生前とそっくりの姿の幽霊として、この世にふっとやって来て、やがてあの世へと去って行く。

辺の旅『岸辺の旅』
 そして死者が、あの世からの旅人として束の間この世に滞在するという、ある種のタイム・リミット的設定が、『岸辺の旅』を哀切な傑作メロドラマにしている。

 いや正確に言えば、そうした非現実的な設定に血を通わせているのは、黒沢清の飛び抜けた演出力なのだ。順を追って述べよう。

――ピアノの個人教師をしている瑞希(みずき:深津絵里)のもとに、3年間失踪していた夫の優介(浅野忠信)が、ひょっこりと「帰って来る」。

 優介は瑞希に、「俺、死んだよ」とぼそりと言うが、その言葉どおり、彼はすでに死者だった。

 そして、あっけらかんとした何気なさで出現した夫が、この世の存在ではないことを、瑞希は

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