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必見! 黒沢清の『岸辺の旅』(下)

“もののあわれ”の映像化

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 優介と瑞希は3つめの場所に向かう途中、1通のハガキをめぐって口論となる。それは生前、優介が関係を持っていた女性、朋子(蒼井優)からのハガキだった。

 もう終わったことだ、と言う優介に反発した瑞希は、東京に戻り、朋子に会うが、意地を賭けた女同士の対決シーンがサスペンスを醸す。

ある視点部門上映後のロビーに登場した(左から)黒沢清監督、深津絵里、浅野忠信=カンヌ 20150518拡大『岸辺の旅』はカンヌ映画祭の「ある視点部門」で監督賞を受賞した。上映後のロビーに登場した(左から)黒沢清監督、深津絵里、浅野忠信=2015年5月
 むろん黒沢清は、二人の女性が感情をむき出しにする瞬間など一切撮らずに、向き合ったまま静かに言葉を交わす彼女らを、交互に切り返しで写す。

 だが彼女らのやりとりは、その抑えられた口調ゆえに、かえって息詰まるような緊張を生むが、シーンのラスト、二人のどちらが口角をかすかに上げて「勝つ」のかは、見てのお楽しみ。

 しかしこの一件も、瑞希と優介の道行きにおいては小波乱にすぎなかった。

 瑞希は優介を許し、二人はさらに旅を続け、山奥の農村へ行く。

 そこで優介は塾を開き、村人たちにいろいろなことを教えていたのだが、二人が世話になる農家には、息子タカシ(赤堀雅秋)を2年前に亡くした父(柄本明)と、タカシの妻・薫(奥貫薫)、一人息子の良太少年が暮らしていた。

 そしてこのパートでは、やはりこの世に未練を残していたタカシが幽霊となって登場し、妻との葛藤のドラマを演じたのち、あの世へと帰還するが、それを目にした瑞希と優介は、改めて死者と生者との因縁に思いを致し、さらには自分たちの旅も終りが近いことを予感する。

<光学的なもののあわれ>

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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