小林章夫(こばやし・あきお) 上智大学教授
上智大学英文学科教授。専攻は英文学だが、活字中毒なので何でも読む。ポルノも強い、酒も強い、身体も強い。でも女性には弱い。ラグビー大好き、西武ライオンズ大好き、トンカツ大好き。でも梅干しはダメ、牛乳もダメ。著書に『コーヒー・ハウス』(講談社学術文庫)、『おどる民 だます国』(千倉書房)など、訳書に『ご遺体』(イーヴリン・ウォー、光文社古典新訳文庫)ほか多数。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
生島淳 著
50年来のラグビー・ファンである。今年(2015年)は思ってもみないかたちで、日本ラグビーが大きな注目、それも世界から絶賛を浴びることになった。
ファンではあるけれど、ワールド・カップでまさか南アフリカを破るとは思わなかった。戦前の予想はベスト8は無理、予選はよくて1勝、勝てるとすればアメリカだろうと考えていた。結果は3勝1敗、ベスト8には進めなかったが、世界3位の南アに勝ったとは。うれしい誤算である。
その後の評価、五郎丸ブーム、いや、時ならぬラグビー・ブーム、夢のような話である。
その立役者はエディー・ジョーンズ。まさかここまで日本チームを鍛え上げるとは思わなかった。そのジョーンズ監督との対話である。
『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話――コーチングとは「信じること」』(生島淳 著 文藝春秋)
大金星をあげる前までのことがここには綴られているから、普通は拍子抜けがするかもしれない。
ところがそんなことはなく、このたぐいまれな人物の姿、ラグビーにかける情熱、戦略がいかんなく描かれていて、少なくとも筆者は改めて感動した。
言うまでもなく、南ア戦勝利の後のインタビューやらは数多く出ているが、やはり本書である。
この本からは冷静でいながら情熱あふれるジョーンズの姿が見事に浮かび上がる点で、ベストだと思う。生島氏の殊勲である。
「コーチングとは信じること」という言葉が心に残る。単なるスパルタ式ではない指導者。それが今までの日本ラグビーには欠けていたのだろう。
もう一つ、彼は日本選手、日本人のメンタリティを信用していない。それが恐ろしい。
実は南ア戦の直前にイギリスから帰っていたので、現地の興奮を味わうことができなかった。しかしそれでよかったと思っている。冷静さを取り戻すことができたからだ。
そして冷静な頭で考えると、4年後はやっぱり厳しいと思わざるを得ない。ジョーンズのいないチームなんて。おまけにジョーンズがイングランドのコーチになるとは。今回惨敗したイングランドをどう建て直すか。それだけが楽しみ。
*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?