満足度が高かった市川染五郎の「阿弖流為」、「奇跡」を感じた市川海老蔵……
2015年12月28日
年間の歌舞伎興行は、歌舞伎座で25公演(昼、夜は別の演目なので各1回と数える。以下同)、国立劇場、新橋演舞場、明治座、浅草公会堂、大阪松竹座、京都南座、博多座、名古屋御園座(会場は別)、金毘羅、さらに地方巡業があるので60近い。
歌舞伎興行は1公演で何演目もあるので、演目の総数は100以上になるはずだ。その演目単位で5つ選ぶが、順位は付けていない。なお、私が見たのは53公演である。
1)阿弖流為(新橋演舞場、7月)
順位は付けないと書いたものの、2015年でいちばん満足度が高かったのは、「阿弖流為」(あてるい)だ。「歌舞伎NEXT」と新作。2002年に劇団☆新感線が上演した「アテルイ」を歌舞伎にした。作・中島かずき、演出・いのうえひでのり。
日本の古代を舞台にした物語で、坂上田村麻呂など実在の人物も登場するが、この時代は史実がほとんど分かっていないので、完全なフィクションだ。
基本的に、戦いのドラマである。戦闘シーンは歌舞伎の様式の枠組みを維持しながらも、激しく、リアルで、それでいて美しい。
勘九郎、七之助が大熱演で、とくに七之助は「戦う女」を演じ、圧倒させた。女形は歌舞伎では耐える役が多いので、本人としても久しぶりに身体能力のぎりぎりまで動き回り、楽しかったのではないか。躍動感あふれ、なおかつ美しく演じた。
勘九郎、七之助の二人を得て、染五郎のエネルギーが爆発した。歌舞伎座で父・松本幸四郎と一緒に出るときは、行儀よくしなければならないので、その重圧からか、いまひとつ、劇場を制圧するだけのオーラが出ないことが多い染五郎だが、「阿弖流為」では彼のナイーブさと、力強さの両面が開花していた。
ストーリーも面白く、飽きない。久しぶりに、もっと見ていたい、終わらないでほしいなあと思わせるものだった。
染五郎の年齢からして、あのテンションで演じられるのも、そう長くはない。では逆に、5年前に勘九郎と七之助がここまでやれたかというと疑問なので、3人の年齢と経験が最高のタイミングでの共演だ。数年後には伝説となっているだろう。
2)若き日の信長(歌舞伎座、11月 昼の部)
11月の歌舞伎座は、市川海老蔵の祖父にあたる11代目團十郎の50年祭と銘打たれての興行となった。
海老蔵は興行の経済的責任を負うわけではないが、50年祭の主宰者である。亡父12代目は存命中にこの50年祭を成功させたいと願っていたそうだから、父の遺志を継いでの興行であり、
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