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[2015年 歌舞伎 ベスト5] 厳選の演目

満足度が高かった市川染五郎の「阿弖流為」、「奇跡」を感じた市川海老蔵……

中川右介 編集者、作家

 年間の歌舞伎興行は、歌舞伎座で25公演(昼、夜は別の演目なので各1回と数える。以下同)、国立劇場、新橋演舞場、明治座、浅草公会堂、大阪松竹座、京都南座、博多座、名古屋御園座(会場は別)、金毘羅、さらに地方巡業があるので60近い。

 歌舞伎興行は1公演で何演目もあるので、演目の総数は100以上になるはずだ。その演目単位で5つ選ぶが、順位は付けていない。なお、私が見たのは53公演である。

市川染五郎のエネルギーが爆発

1)阿弖流為(新橋演舞場、7月)
 順位は付けないと書いたものの、2015年でいちばん満足度が高かったのは、「阿弖流為」(あてるい)だ。「歌舞伎NEXT」と新作。2002年に劇団☆新感線が上演した「アテルイ」を歌舞伎にした。作・中島かずき、演出・いのうえひでのり。

「阿弖流為」の市川染五郎(中央)、中村勘九郎(左)、中村七之助(右)=松竹提供拡大「阿弖流為」の市川染五郎(中央)、中村勘九郎(左)、中村七之助(右)=松竹提供
 「アテルイ」の時は市川染五郎が劇団☆新感線に客演したが、今回の「阿弖流為」は、中島といのうえが歌舞伎に招聘されて、染五郎に加え、中村勘九郎、中村七之助以下、歌舞伎役者が演じたものだ。

 日本の古代を舞台にした物語で、坂上田村麻呂など実在の人物も登場するが、この時代は史実がほとんど分かっていないので、完全なフィクションだ。

 基本的に、戦いのドラマである。戦闘シーンは歌舞伎の様式の枠組みを維持しながらも、激しく、リアルで、それでいて美しい。

 勘九郎、七之助が大熱演で、とくに七之助は「戦う女」を演じ、圧倒させた。女形は歌舞伎では耐える役が多いので、本人としても久しぶりに身体能力のぎりぎりまで動き回り、楽しかったのではないか。躍動感あふれ、なおかつ美しく演じた。

 勘九郎、七之助の二人を得て、染五郎のエネルギーが爆発した。歌舞伎座で父・松本幸四郎と一緒に出るときは、行儀よくしなければならないので、その重圧からか、いまひとつ、劇場を制圧するだけのオーラが出ないことが多い染五郎だが、「阿弖流為」では彼のナイーブさと、力強さの両面が開花していた。

 ストーリーも面白く、飽きない。久しぶりに、もっと見ていたい、終わらないでほしいなあと思わせるものだった。

 染五郎の年齢からして、あのテンションで演じられるのも、そう長くはない。では逆に、5年前に勘九郎と七之助がここまでやれたかというと疑問なので、3人の年齢と経験が最高のタイミングでの共演だ。数年後には伝説となっているだろう。

市川海老蔵が父に向けた「宣言」

2)若き日の信長(歌舞伎座、11月 昼の部)
 11月の歌舞伎座は、市川海老蔵の祖父にあたる11代目團十郎の50年祭と銘打たれての興行となった。

 海老蔵は興行の経済的責任を負うわけではないが、50年祭の主宰者である。亡父12代目は存命中にこの50年祭を成功させたいと願っていたそうだから、父の遺志を継いでの興行であり、 ・・・ログインして読む
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筆者

中川右介

中川右介(なかがわ・ゆうすけ) 編集者、作家

1960年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2014年まで出版社「アルファベータ」代表取締役として、専門誌「クラシックジャーナル」、音楽書、人文書を編集・発行。そのかたわら、クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲などについて、膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる独自のスタイルで執筆。著書は『カラヤンとフルトヴェングラー』『十一代目團十郎と六代目歌右衛門――悲劇の「神」と孤高の「女帝」』『月9――101のラブストーリー』(いずれも幻冬舎新書)、『山口百恵――赤と青とイミテイション・ゴールドと』『松田聖子と中森明菜――一九八〇年代の革命』(ともに朝日文庫)、『戦争交響楽――音楽家たちの第二次世界大戦』『SMAPと平成』(ともに朝日新書)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『角川映画 1976-1986(増補版) 』(角川文庫)、『怖いクラシック』(NHK出版新書)など50点を超える。

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