大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主
1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
世界遺産の宮司が口にする「本音」ブログ
仕事の都合で奈良・大阪に通うようになってはや2年が過ぎた。週の後半だけ奈良に拠点を置いて大阪との間を行き来する日々。
これまで関西を知る機会に恵まれなかった身にとってはことごとくが新鮮である。
中学の修学旅行で訪れて以来、憧れの存在であった奈良の古寺をゆっくり巡ることができるのも嬉しいし、味とコストパフォーマンスに並々ならぬ探究心を傾ける大阪人の食文化も楽しい。
けれど何より有り難いのは、吉野が身近になったことだ。
奈良からでも大阪からでも、大阪阿部野橋や橿原神宮前経由で近鉄特急を使えば、およそ2時間足らずで終点の吉野駅に着く。
西行が庵を結んだ吉野、谷崎が訪れて「吉野葛」を書き、前登志夫が終生暮らした吉野である。
何を置いてもまず桜。最初の春は居ても立っても居られず、ザックを背負って駅を降りた。
日本最古(支柱は昭和3年建造!)というロープウェイは遠慮して、七曲坂を登る。
金峯山寺を経て下千本、中千本、上千本……。
奥千本がちょうど満開の頃で、高城山の展望台から振り返った吉野山の全景は圧巻だったし、西行庵まで足を延ばして苔清水の冷たい水を口に含んだ時は、その清冽な味に山道の疲れを忘れた。
新緑の頃には瑞々しい緑に眼を洗われ、この葉たちが色づいたらさぞ見事に違いない、と思って、またぞろ秋には逸る気持ちをおさえて紅葉を見に出かけたりもした。
しかし、困った事態が出来した。世界遺産のひとつにも登録されている吉水神社の宮司のブログをたまたま目にしてしまったのだ。
ヘイトスピーチに詳しい人たちの間ではもはや常識なのかもしれないが、不覚にも桜を見た直後にそれを知り、驚いた。
〈世界遺産の吉水神社から「ニコニコ顔で、命がけ!」〉と題されたそのブログでは、佐藤一彦という宮司が、