あっという間の5時間17分
2016年02月22日
ケーブルカーがトンネルを抜けて六甲山を登って行く。
遠景に神戸の街が見えてくる。
何かを喋っている、ケーブルカーの座席に横一列に並んだ4人の女性。
昼の柔らかな自然光が差して画面の明るさが増す――そんな印象深いシーンで始まり、ゆっくりと立ち上がってくるドラマが、しだいに鋭い緊張をはらんでゆく『ハッピーアワー』の展開に、私たちは否応なく引き込まれ、5時間17分のあいだスクリーンから目が離せなくなくなる。
37歳の濱口竜介監督が、市民参加による「即興演技ワークショップ in Kobe」を出発点に、演技経験のない4人の女性を起用して撮り上げた傑作である(3部構成)。
描かれるのは、“惑いの季節”を生きる、30代後半を迎えたくだんの4人の女性の人生模様だが、それが他人事とは思えない切実さで見る者に迫ってくる。
その点にこの映画の、鮮烈な未視感がある(しかも後述のとおり、この映画の放つ訴求力は、人物の心の揺れをさまざまな微妙なニュアンスでつかまえる、いわば“濱口マジック”とも呼ぶべきユニークな演出法によっている)。
そして『ハッピーアワー』では、それぞれの個(別)性が鮮やかに描き分けられる4人が同時に登場するパートのほか、彼女らのうちの1人、ないしは2人だけがフォーカスされるパートもある。
したがって本作は、彼女らの関係性の機微を描くドラマであると同時に、
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