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必見! トッド・ヘインズ『キャロル』(上)

心揺さぶる“女性映画”の超傑作

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 『キャロル』は、2人の女性同士のファタル/運命的な恋愛を、精妙かつ情感豊かに描いた絶品だ。何より、1950年代初頭のアメリカという時代設定が効いている。

キャロル拡大『キャロル』(ルーニー・マーラ<左>とケイト・ブランシェット)
 すなわち、当時の、今よりさらに道徳的な抑圧の強かったアメリカでは、同性愛は完全なタブーであったがゆえに、2人の恋愛模様は劇的な様相を帯びる(禁忌/タブーが強固であればこそ、恋の情念はいっそう燃え立つ)。

 さらに、レズビアンだったパトリシア・ハイスミスが変名で52年に刊行した原作小説を、女性シナリオライターのフィリス・ナジーがすでに15年前に脚本化しており、その映画化が紆余曲折を経たのち、ゲイであることを公表している異才トッド・ヘインズ監督に任されたという経緯にも、何か因縁めいたものを感じる。

 もとよりトッド・ヘインズは、50年代アメリカの影の部分に強い関心を抱いていて、その時代にメロドラマの傑作を連打した名匠ダグラス・サーク監督を崇敬していた。

 そしてヘインズは2002年、サークの傑作『天はすべて許し給う』(1955)へのオマージュとして、佳品『エデンより彼方に』を撮り上げたのである。

 したがってヘインズが、『キャロル』を心揺さぶる傑作に仕上げたことは、映画史にとっても映画ファンにとっても、じつに幸運であったと言えよう(後述のごとく本作における50年代アメリカの、光と色彩による「再現」=映画的創造は、超のつくほど完璧。なお以下ネタバレあり)。

視線の交わりと運命的な恋の始まり

――1952年、クリスマスを目前に賑わうマンハッタン。若いテレーズ(ルーニー・マーラ)は、高級百貨店のおもちゃ売り場のアルバイト店員で、写真家志望だったが、自分が何をしたいのかわからぬまま、漠然と日々を過ごしていた。ステディなボーイフレンド、リチャード(ジェイク・レーシー)との結婚にも踏み切れずにいる。

 そんなある日、テレーズは、娘へのプレゼントを買いに売り場を訪れたエレガントな金髪の女性、キャロル(ケイト・ブランシェット)の婉然(えんぜん)たる美しさに魅了され、彼女をうっとりと見つめる。

 と、キャロルもテレーズの視線に気づき、2人の目が合う。決定的な

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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