メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

必見! トッド・ヘインズ『キャロル』(中)

ロード・ムービー形式、古典性と現代性の共存、超絶な画面造形など

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 中盤で、2人がアメリカ西部を巡る自動車旅行に出発する『キャロル』は、よってそれ以降、恋愛映画+ロード・ムービーという形をとる(キャロルの運転するロールスロイスのゆるやかな速度が、ロード・ムービー感を高める)。

ケイト・ブランシェットケイト・ブランシェット
 もちろんこの旅は、キャロルとテレーズにとって、思うに任せない現実からの逃避行であり、禁断の恋の道行きでもある。

 ハイスミスの原作どおりの展開ではあれ、ヘインズ監督と脚本家のナジーは、原作を大きく刈り込み、優れた映画ならではの簡潔な語りで、ドラマを佳境に導いてゆく(ハイスミスの原作<柿沼瑛子・訳、河出書房新社、2015>でキャロルが登場するのは50頁<第1部第3章>であるが、彼女を映画の冒頭で登場させたヘインズおよびナジーの脚色は卓抜)。

ラブシーンの美しさ

 2人は、オハイオのモーテルでついに結ばれるが、そのラブシーンは

・・・ログインして読む
(残り:約2981文字/本文:約3353文字)