「人形アニメーションで日本の子どもたちを励ましたい」
2016年04月14日
去る2月20日、長編人形アニメーション映画『ちえりとチェリー』が宮城県仙台市東北大学百周年記念館で上映された。たった1日限りの上映であったが、約1000人の動員を実現した。続く2月27日には岩手県民会館で上映会が行われ、こちらも約1000人を動員した。
『ちえりとチェリー』は、この2日間の上映を皮切りに、数年をかけて日本各地の公共施設やホール等で有料上映されて行く予定だ。まずは好調なスタートを切ったと言えるだろう。
来る4月16日には福島県郡山市民文化センター、4月23日には岩手県花巻市文化会館、4月29日には宮城県名取市文化会館で上映される。今夏には東京・渋谷ユーロスペースでの上映も決定している。自主上映会などの開催も受付中だ。
この映画は、通常のシネコンがメインとなるような上映はしないという。各地の上映は基本的に1日数回限り。その日、当地まで足を運んだ観客しか観ることは出来ない。
つまり、主体的な意志で「観たい」と思う観客を集めて全国を巡回するという上映方式だ。全国一斉公開の短期集中的興行形式の対極であり、「スローシネマ」と銘打たれている(協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワーク)。
1990年代まで盛んだった「親子映画運動」の復権的試みであり、その成否は注目に値する。動員の鍵は各地域の上映実行委による地域ぐるみの宣伝とSNSや口コミである。しかし、肝心の作品に人を惹きつける魅力があることが大前提となることは言うまでもない。
『ちえりとチェリー』は次のような筋立てだ。
亡くなった父の法要で、東北の祖母の家を母と訪れたちえり。いつも一緒の古いぬいぐるみ・チェリーは、空想の中ではちえりの良き理解者でいつも守ってくれる頼もしい相棒だ。
ちえりとチェリーは家の中を探険するうちに、そそっかしいネズミと美しい猫と難産に苦しむ母犬と出会う。ちえりたちは生まれ来る子犬の命を守ろうと奔走するが、死の影も想像力で膨らませてしまう……。
冒険ファンタジーの下地に喪失と死、回復と生誕という対照的な重いテーマが含まれている。東日本大震災直前の2010年に企画がスタートし、実に5年の歳月を費やして完成した。
日本は世界随一の長編アニメーション量産国だが、実は完全オリジナル脚本による人形アニメーションの長編映画は前例がない。ロシア・韓国・日本の3カ国にまたがるグローバルなスタッフワークも画期的である。
制作の経緯、作品に込めた想い、上映運動の成果など、原作・脚本・監督を務めた中村誠氏に幅広く伺った。
中村誠(なかむら・まこと)
脚本家・アニメーション映画監督。フロンティアワークス所属。ラジオドラマ、テレビ・アニメーション作品のプロデュース・脚本・シリーズ構成を歴任。代表作『劇場版AIR』『テレパシー少女 蘭』『のらみみ』『雪の女王』『劇場版CLANNAD』『ジュエルペット てぃんくる☆』など。2010年、長編映画『チェブラーシカ』(2010年)を初監督。『ちえりとチェリー』は2作目の長編監督作品となる。
――2月から東北地方を皮切りに『ちえりとチェリー』の全国上映が開始されました。まずは「スローシネマ」という上映形式を選ばれた理由から伺えますでしょうか。
大きな劇場やシネコンで上映される場合、公開直後の動員が伸びなければ上映回数はすぐに減らされ、短期興行で終わってしまう可能性が高いと思いました。
人形アニメーションの制作には大変時間がかかります。じっくり観ていただきたいという思いでコツコツ作り続けて来た作品なので、数年かけて日本各地で上映されて行くという「スローシネマ」がふさわしいと思ったのです。
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