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必見! 横浜聡子『俳優 亀岡拓次』(上)

脇役俳優が主役の秀逸喜劇

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 37歳独身の脇役俳優、亀岡拓次。見た目は地味でパッとしないが、その影の薄さが持ち味だ。泥棒、チンピラ、ホームレスなど、頼まれればどんな役でも引き受け、粛々とこなす。撮影がある場所なら、長野、山形、山梨、モロッコと、どこへでも出かける。

 なので、監督、スタッフ、プロデューサーからの信頼は厚く、重宝がられ、映画の仕事を中心に、テレビドラマや舞台にも出演し、引っ張りだこ。

 ただし脇役専門である以上、世間的な知名度は低い。しかしそれも、亀岡がさまざまな端役にスッとなりきるうえでは利点となる。ほとんど無名だからこそ、どんな脇役もこなせるわけだ。

 『俳優 亀岡拓次』は、そんな脇役一筋の亀岡を<主役>にして、1978年生まれの異能(まさしく!)横浜聡子が撮り上げた、近年まれに見るコメディ邦画の逸品である(原作は戌井昭人の同名小説)。

俳優 亀岡拓次」拡大『俳優 亀岡拓次』

ハマリ役の安田顕

 見どころは満載だが、まずはキャスティングに唸らされる。

 とりわけ、亀岡拓次を演じる安田顕が、まるで亀岡が乗り移ったかのようなハマり役。

 ―― 亀岡/安田顕は、一人酒が趣味で、撮影や移動以外のほとんどの時間を飲み屋で過ごし、しょっちゅうウトウトしているが、そんな姿を見ていると、安田以外に亀岡役はありえないと思ってしまう。

 たとえば、飲み屋のカウンターに突っ伏していた彼が、ふと顔を上げ、ぼうっと眠たげな目をさまよわせる“酩酊感”の絶妙さ!……この酩酊感ないしは“ほろ酔い気分”が、そこはかとないユーモアを全篇に行き渡らせ、かつ横浜独特のシュールな場面への急転換をもスムーズにする。

 そして横浜聡子はさらに、ほのかなペーソス/哀愁をフィルムに加味する、という離れ技をやってのけるが、本作には3つの軸がある。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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