脇役俳優が主役の秀逸喜劇
2016年05月02日
37歳独身の脇役俳優、亀岡拓次。見た目は地味でパッとしないが、その影の薄さが持ち味だ。泥棒、チンピラ、ホームレスなど、頼まれればどんな役でも引き受け、粛々とこなす。撮影がある場所なら、長野、山形、山梨、モロッコと、どこへでも出かける。
なので、監督、スタッフ、プロデューサーからの信頼は厚く、重宝がられ、映画の仕事を中心に、テレビドラマや舞台にも出演し、引っ張りだこ。
ただし脇役専門である以上、世間的な知名度は低い。しかしそれも、亀岡がさまざまな端役にスッとなりきるうえでは利点となる。ほとんど無名だからこそ、どんな脇役もこなせるわけだ。
『俳優 亀岡拓次』は、そんな脇役一筋の亀岡を<主役>にして、1978年生まれの異能(まさしく!)横浜聡子が撮り上げた、近年まれに見るコメディ邦画の逸品である(原作は戌井昭人の同名小説)。
見どころは満載だが、まずはキャスティングに唸らされる。
とりわけ、亀岡拓次を演じる安田顕が、まるで亀岡が乗り移ったかのようなハマり役。
―― 亀岡/安田顕は、一人酒が趣味で、撮影や移動以外のほとんどの時間を飲み屋で過ごし、しょっちゅうウトウトしているが、そんな姿を見ていると、安田以外に亀岡役はありえないと思ってしまう。
たとえば、飲み屋のカウンターに突っ伏していた彼が、ふと顔を上げ、ぼうっと眠たげな目をさまよわせる“酩酊感”の絶妙さ!……この酩酊感ないしは“ほろ酔い気分”が、そこはかとないユーモアを全篇に行き渡らせ、かつ横浜独特のシュールな場面への急転換をもスムーズにする。
そして横浜聡子はさらに、ほのかなペーソス/哀愁をフィルムに加味する、という離れ技をやってのけるが、本作には3つの軸がある。
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