映画的な脚本の勝利
2016年05月11日
必見! 横浜聡子『俳優 亀岡拓次』(上)――脇役俳優が主役の秀逸喜劇(WEBRONZA)
『俳優 亀岡拓次』の脚本は、横浜聡子監督が自身で書いている。それこそが、この映画が成功した最大の理由だと思われるが、パンフレット所載のPRODUCTION NOTES(取材・文=須永貴子)に記された、彼女が脚本執筆にいたったプロセスは興味深い。
――戌井昭人の原作は、亀岡が参加する現場ごとにエピソードが完結する、連作短編集的な構成だが、それをつなげて1本の映画にするにあたり、亀岡(安田顕)の安曇(麻生久美子)への恋心がストーリーの背骨となった。何人かの脚本家との改稿を重ねて1年が過ぎた頃、横浜は脚本も自分で書くと決意する。
最終的に横浜がこだわったのは、原作にはあまり描かれていない亀岡の内面[おそらく彼の生活感や夢や願望のこと]だった。そして、役をこなす亀岡と素の[オフの時間を過ごす]亀岡、それを描いた映画という境界を越えていくことを主眼に[脚本作成の]作業が進められた、という――。
このPRODUCTION NOTESの後段で言われている、場面によっては虚と実の境目を見えにくくする、という脚本構成は、前回述べたように、本作に抜群の効果=面白さをもたらしている。
そしてじつは、原作とは異なり、亀岡の安曇への恋心を主筋にした卓抜な脚本こそが――例の亀岡の“酩酊感”とあいまって――、シュールに突き抜けたシーンに、したたかなリアルさとおかしさを生んでいるのだ。
たとえば、序盤の居酒屋「ムロタ」の場面で、店のテレビは、アメリカの女性宇宙飛行士が起こした奇妙な事件を報じる。
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