われらの欲望が生んだ偽ベートーヴェン
2016年06月10日
青木るえか「佐村河内さんたちと小保方さんを一緒にするな」(WEBRONZA)
青木るえか「佐村河内守さん事件、最初は笑ったが、だんだん胸が痛くなり……」(WEBRONZA)
中川右介「『時代錯誤』の作曲家・佐村河内守――ハンディキャップ・クラシックと『感動の美談』」(WEBRONZA)
福嶋聡「すべては佐村河内守と森達也の『FAKE』なのか――最後まで疑いを捨てられないドキュメンタリーの醍醐味(WEBRONZA)
森達也は、オウム真理教(当時)の内部を、オウム=絶対悪という枠をとっぱらった独自のアングルで記録した『A』(1997)、および『A2』(2001)で知られるドキュメンタリー映画監督。15年ぶりとなる彼の新作『FAKE』は、かの佐村河内守に“密着”した、これまた問題提起的で興味深い作品だが、本作に触れる前に、まずは2014年に世間を騒がせ、メディアの餌食(えじき)となった佐村河内事件を、私見を交えて簡単に振り返っておこう。
だが2014年2月、佐村河内作とされる曲が、じつは作曲家・新垣隆によるゴーストライティング(代作)であることが発覚すると、テレビ・週刊誌・新聞などのメディアは一転、こぞって佐村河内を「偽ベートーヴェン」「詐欺師」と呼び、この“食いつきのいい(高視聴率を稼げる)”事件に飛びつき、連日連夜、大々的に――「殊勝な反省モード」も取り込んで――報道しつづけた。
例によってメディアは、その本性のひとつであるスキャンダリズムの牙をむき出しにしたわけだ(「スキャンダリズム」とは、スキャンダル/醜聞を詮索・暴露する新聞・雑誌などのメディアの傾向)。
そして、「NHKスペシャル・魂の旋律~音を失った作曲家~」を放送し(2013年3月31日)、佐村河内ブームの火付け役となったNHKは、即刻ニュース番組で謝罪表明をおこなったが、われわれの多くが、この一連の騒動をスキャンダル・エンターテインメントとして楽しみ、ストレス発散目的で消費したことは言うまでもない――。
佐村河内守の「人となり」、履歴、および彼の引き起こした事件については、ノンフィクション作家・神山典士の『ペテン師と天才――佐村河内事件の全貌』(2014、文藝春秋)に詳しいが、私が
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