「日本独特のコマ撮りアニメーションが世界で支持されて欲しい」 松本紀子氏に聞く
2016年06月17日
日本を代表する人形アニメーション制作スタジオ「ドワーフ(株式会社TYO)」の新作『The Curious Kitty & Friends(原題)』が完成した。本日6月17日より、Amazon プライム・ビデオで世界5カ国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリア)で無料配信される。今回、Amazon プライム・ビデオのパイロットシーズンで公開し、その反響などを考慮してシリーズ化を判断する構想だ。
ここまで大規模な日米合作の人形アニメーション企画は、1960年代に持永只仁氏率いるMOMプロダクションが米のランキン・バス・プロダクションと作り上げた『ルドルフ 赤鼻のトナカイ』(1964年)などのテレビ用単発以来、実に50年ぶりである。
原作・監督・キャラクターデザインは合田経郎氏、筆頭アニメーターにベテランの峰岸裕和氏といういつものドワーフスタッフに加え、米側スタッフとして『セサミストリート』『Hello! オズワルド』で知られる児童心理学者アリス・ワイルダー博士が監修を務め、脚本はディズニーの児童向けチャンネルで人気のシリーズ『ドックはおもちゃドクター』(Brown Bag Films制作)などで知られるケント・レデカーが担当している。
本作は、ドワーフの人気シリーズ『こまねこ』(※注)のファン待望の新作でもある。しかし、ネット上で制作が発表されると、従来のデザインが一新された画像にファンの間では賛否が飛び交った。シリーズを愛してきたファンの心中は複雑であろうが、一方で本作で初めて『こまねこ』と出会う子供たちもいる筈だ。
当然だが、デザイン変更まで制作者たちは大変な苦労と努力を積み重ねている。これまで一体どのような経過をたどったのか。そこにはどんな決意が込められていたのか。日米の様々な差異を乗り越え完成に至った経緯をプロデューサーの松本紀子氏と「生みの親」である合田経郎監督に2回に分けて詳しく伺った。
※注 『こまねこ』
2003年、東京都写真美術館で開催された「過程を見せる展覧会。“絵コンテの宇宙 イメージの誕生"」展内で、コマ撮りアニメーションを制作するねこ(「こまねこ」)を主人公とした人形アニメーション短編の撮影現場が実演と共に展示された。これが第1作『はじめのいっぽ』として完成、人気を博したことから以降シリーズ化。2006年にオムニバス形式の長編『こま撮りえいが こまねこ』が全国公開。同作は2009年にフランス、ベルギーでも公開。以降もシリーズ続編DVD、CM、書籍発売等、幅広く制作されている。
松本紀子(まつもと のりこ)
プロデューサー。東洋大学社会学部卒業後、TYO入社。1995年からはプロデューサーとして、コカ・コーラ、マクドナルドをはじめとして100本以上のCMをプロデュース。1998年の「どーもくん」誕生以来、映像制作と展開をプロデュース。その後2006年、ドワーフに移籍。「こまねこ」「PLUG」等キャラクターのコンテンツ、広告のプロデュース等、活動は多岐に渡る。
――まず、本作の企画の発端について伺えますか。
私たちが取り組んでいる「コマ撮りアニメーション」は特殊な世界で、いわゆる「アニメ業界」「広告業界」に所属しているとは言い切れません。あえて言うなら、どこからも距離のある微妙な立ち位置にいます。
コマ撮りは時間とお金がかかるので、日本ではCMやテレビスポットなど単発の短編が主な仕事で、社会的に注目されるような、まとまったシリーズを作るのは大変難しい。
しかし、作り続けていかないと人も育たないし、スタジオとしても成長していくことが出来ません。何とか、もっとボリュームのある作品を作り続けられるようになりたい、海外でも観てもらえる作品を作りたいと、ずっと思っていました。
『どーもくん』のテレビシリーズ(2008年以降、米の大手ケーブル局ニコロデオンで放送され世界中で人気)を制作したことが契機で、ここ数年アメリカやイギリスのコマ撮りスタッフたちと親交が深まり、情報交換の機会が増えました。3、4年前からそうした友人たちとの間で「今後仕事の中心はテレビからネット配信に移るだろう」という会話が頻繁に交わされていました。
やがて、アメリカのアニメーション業界の仲間からAmazonスタジオを紹介してもらうことができました。日本でパートナーを探すのが難しいのなら、いっそ世界に打って出る可能性を模索してみようと思ったのです。
Amazonのプロデューサーとスタッフは、最初から「『どーもくん』を作ったスタジオだ」と認識してくれていました。「キッズ/プリスクール(未就学児)」向け作品を共同制作する――という方向で話し合いの場が何度も持たれました。
私たちは、一から新作を作るつもりでアメリカで好まれそうな様々なアイデアを出しましたが、結果は不採用でした。逆に先方から「『こまねこ』がいい」と提案されました。
Amazonのスタッフは、オリジナルの『こまねこ』をよく観ていて「主人公のこまちゃんはクリエイター。彼女が作品を作ることでキャラクター同士の関係やコミュニティが回っていく。つまり“映画の中に映画がある”という、二重構造がすごく面白い」と言ってくれたのです。その時、私たちが大切にして来た『こまねこ』の根っこの部分はちゃんと共有出来ているという感覚を持ちました。ここが起点になりました。
――アメリカ側にとって『こまねこ』の設定が実に斬新だったわけですね。一方で擦り合わせが難しい問題も多々あったと思いますが。
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