小林章夫(こばやし・あきお) 上智大学教授
上智大学英文学科教授。専攻は英文学だが、活字中毒なので何でも読む。ポルノも強い、酒も強い、身体も強い。でも女性には弱い。ラグビー大好き、西武ライオンズ大好き、トンカツ大好き。でも梅干しはダメ、牛乳もダメ。著書に『コーヒー・ハウス』(講談社学術文庫)、『おどる民 だます国』(千倉書房)など、訳書に『ご遺体』(イーヴリン・ウォー、光文社古典新訳文庫)ほか多数。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
倉本聰 著
日経の裏面に載る有名人の履歴書は面白いのもあるが、首をかしげるのもある。この本を読んで、へえー、あの倉本聰も80歳なのかと驚いた。
『見る前に跳んだ 私の履歴書』(倉本聰 著 日本経済新聞出版社)
実はこの人のエッセイ集が好きで、ずいぶん読んだ覚えがあるし、書斎にも何冊かある。
読むたびに痛快、かつ愉快で、ずいぶん楽しんだのだが、このところはとんとご無沙汰だった。
理由は二つ。第一に、日本のテレビドラマが面白くなくなって、ほとんど見なくなったこと、第二に、倉本聰が昔書いた脚本は面白かったが、あの『北の国から』が苦手で、まるで興味がわかなかったからだ。
こんなことを言うと、『北の国から』大好きの人たちからブーイングを食らいそうだが、仕方がない。過酷な大自然の中で生きる人々が、どうも肌に合わないのである。嫌いじゃないのだが、どうですいいでしょう、感動するでしょうといった押しつけがましさを感じたとたん、見たくなくなったのである。
もっと昔、1980年代に見た倉本聰のドラマはともかく魅力的だった。渡辺淳一の色っぽい小説をドラマにして、田宮二郎が主演した作品。テレビでこんなすごいシーンを見せていいのかと思いながら、目はくぎ付けだった。
『浮浪雲』のめちゃくちゃぶり、『前略おふくろ様』のショーケン、思い出せば、渡哲也、大滝秀治、室田日出男に川谷拓三、いろいろと顔ぶれが浮かんでくる。テレビも元気だったんだ。それに引き換え、今の惨状は! いや、もう言うまい。
最後に、この本には倉本聰の履歴はもちろんだが、著作、脚本を書いた作品などが年代を追って明記されているのがうれしい。この稀代の脚本家の足跡を知るうえで不可欠なものとなった。
*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
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