コンペになくとも、あちこちで活躍した日本映画
2016年07月07日
今年のカンヌ映画祭は4年ぶりに日本映画がコンペになかった。しかし邦画の活躍はあちこちで見られた。「ある視点」部門には、深田晃司監督の『淵に立つ』と是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』の2本が出品。
2等賞の審査員賞を取った『淵に立つ』(今秋公開)は、町工場を経営する男(古舘寛治)の家族のもとに彼の旧友(浅野忠信)が現れて、波紋を起こす物語。「幸福な順応主義をまとう無秩序の演劇を、低音の悪意に満ちた聡明な演出で巧みに指揮する」(リベラシオン紙)、「隠され過ぎた秘密の発酵に立ち会う登場人物たちにモチーフの円環(音楽、空間、しぐさ)をぶつけ、無言の抑圧の文化を非難する」(ルモンド紙)と絶賛された。
コンペの受賞経験もある是枝監督の『海よりもまだ深く』(公開中)もまた家族を描いたものだが、公式上映では、樹木希林や阿部寛の言葉の一つ一つに観客が笑い、頷くのがそばでじかに伝わってきた。ルモンド紙は、「笑いを誘うセリフやおかしな状況に、停滞した苦悩や失望、存在の容赦ない侵食が隣り合う」と評価。
同じく「ある視点」特別賞のアニメ『レッドタートル ある島の物語』(9月公開)は、オランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督のフランス映画だが、スタジオジブリが製作に参加し、高畑勲がアーティステック・プロデューサーを務めた。無人島にたどり着いた青年のその後を描く、全編セリフなしの80分の映像詩。
コンペ外上映の韓国のナ・ホンジン監督『哭声』では國村隼が全編に出演し、連続殺人の容疑者とされる謎の日本人を怪演した。
短編部門や学生映画部門の審査員長を務めた河瀨直美も、カンヌの常連監督。
さらに、古典のデジタル復元版を上映する「カンヌ・クラシック」部門では、瀬尾光世監督『桃太郎 海の神兵』(1945年)と溝口健二監督『雨月物語』(1953年)が上映された。『桃太郎』を出した松竹は、2012年の木下恵介監督『楢山節考』(1958)から5年連続の出品。今回は日本初の長編アニメで、珍しいプロパガンダ映画でもあり、会場は満員となった。
『雨月物語』は、KADOKAWAが、マーチン・スコセッシ監督の「ザ・フィルム・ファウンデーション」と共同で4K復元をした。上映前には、スコセッシ監督がこの映画を絶賛するビデオが流れた。
「ある視点」の2本は、カンヌの出品が決まる前からフランスでの配給が決定しており、世界配給もフランスの会社が担当している。カンヌに初めて深田晃司監督作品が出るには、パリ在住の澤田正道プロデューサーの力が大きい。彼は2015年に同部門で監督賞をとった黒沢清監督『岸辺の旅』もフランスと共同製作した。
すべて、国際的な人脈を持つ日本人が増えたからだが、ここで深田監督が授賞式で述べた挨拶について触れておきたい。
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