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必見! ジャ『山河ノスタルジア』(下)

顔・風景・音楽による<情>の表現の強度など

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 前回述べたように、物語的主題という点では、『山河ノスタルジア』は典型的なメロドラマであり、よって描かれるのは、母と子が互いに抱く感情を軸にした、さまざまな人物たちの喜怒哀楽だ。そして通奏低音となるのは、ヒロインのタオの心に去来する、過ぎ去った時代や故郷を懐かしむ情緒、すなわちノスタルジア/郷愁である。

 ただし肝心なのは、人物たちのそうした感情や思いが、けっして感傷に流れることなく、といって必ずしも禁欲的にセーブされるのでもなく、ときに濃(こま)やかに、ときに鮮烈に描かれることだ。繰り返せば、ジャ・ジャンクーはあくまで、人物の抱く感情を、ひいては物語を、<どう描くか>に注力しているのである。

山河ノスタルジア拡大『山河ノスタルジア』=ビターズ・エンド提供
 それにしても、これまでのジャの映画では、登場人物は本作のようには感情を強く顔に表すことがなかった。

 本作のタオ/タオ・チャオの演技に顕著なように、顔で情を表すことへの、つまり<表=情>へのこだわりは、前作『罪の手ざわり』(2013)における富の偏在によって噴出する暴力の描写への挑戦同様、ジャにとっていわば賭けのような、大胆な試みであったにちがいない。

 そしてそれが、後退であるどころか、まぎれもない進化であることに感服するが、その意味で『山河ノスタルジア』は、前作同様、ジャの<実験映画>であるといえる。

ジャ・ジャンクーの感情表現

 では、そうしたヒロインらの感情表現の強度は、凡百(ぼんびゃく)のメロドラマのそれとどう異なるのか。

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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