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女性が感じる職場の悩みと働きやすい環境とは?

第3回「女性の『自分らしさ』と『生きやすさ』を考えるクロストーク」リポート

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 6月18日に開催されたイベント「女性の自分らしさと生きやすさを考えるクロストーク ~第3回 女性が感じる職場の悩みと働きやすい環境を考える~」は、女性の労働問題に詳しい新村響子弁護士をゲストにお招きして、オンライン署名サイト「Change.org」の武村若葉さんとともに、職場における女性を取り巻く様々な問題についてトーク&ディスカッションを行いました。今回はその模様を簡単にリポート致します。

 参加者には事前にアンケートで、「日本の職場における女性を取り巻く様々な問題のうち、女性が働きにくい職場環境を作っている要因として、あなたが強く感じているものはどれですか?」という質問をさせて頂きました。

ハラスメント

 まず、セクハラ関連について該当すると答えた人が多い項目を集計したところ、以下のようになりました。

【表1挿入】拡大【表1】

 1位の「『女性ならこうするほうが幸せだ』という個人の価値観を押し付けてくる人がいること」に関しては加害者本人が無自覚であることも多く、新村弁護士が企業内でセクハラ対策研修を行う時も、「価値観の押し付けもセクハラになると初めて知った」という感想が寄せられることがあるそうです。

 2位には「環境型セクハラ」がランクインしましたが、新村弁護士によると、セクハラに関する慰謝料が日本は低過ぎると言います。言葉のセクハラだと数十万円からで、身体的な接触があっても3桁に乗らないケースが多く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等メンタル面の問題が生じた場合や休職期間が長引いた場合、退職した場合等にようやく3桁に乗ることがあるそうです。

第1回イベント=2016年3月19日、朝日新聞メディアラボ渋谷分室拡大左から武村若葉さん、ゲストの新村響子弁護士、勝部元気さん=2016年6月18日、朝日新聞メディアラボ渋谷分室、撮影・吉永考宏
 一方で、アメリカには「懲罰的慰謝料」という制度が存在して、報道されているように、違反者に巨額の支払いが課せられます。日本にも同様の制度が導入されれば、かなり状況は変わることでしょう。

 また、少し前まではセクハラをした従業員を解雇した企業に対して、「解雇はやり過ぎ」とする判決もありましたが、最近は「解雇でも厳しくない」という判決も出てきて、セクハラ研修に力を入れ始めた企業もあるそうです。このような事例が積み重なっていけば、セクハラに「寛容な」社会も少しずつ改善されるのかもしれません。

 裁判に訴えるのは難しいという被害者もいるかもしれませんが、声をあげないことには事態が改善されないというのが実情でしょう。新村弁護士からは「権限があって、相談すると味方になってくれそうな人を社内外に作っておくことから始めると良いと思う」とのアドバイスを頂戴しました。

人事評価

 次に、女性が働きにくい職場環境として、人事評価に関連する要因をあげて頂いたところ、結果は以下の通りとなりました。

【表2】拡大【表2】

 1位にランクインしたのは「長時間労働をしている人が高い評価を受ける」という、評価基準の問題です。これに該当すると答えた人は80.0%と断トツであり、メディアや有識者の間でこれだけ問題視されているにもかかわらず、いまだにその意識が低い企業がこれほど多いことに大変驚かされました。

 日本では楽をすることは良くないと見なされることも多く、様々な場面で献身的に時間を多く使うほうが真剣に取り組んでいると捉えられがちです。たとえば子供の弁当も「手作りのほうが、より愛情が籠(こも)っている」「冷凍食品を食べさせるのは手抜きで、子供が可哀想」とよく言われることもその典型例でしょう。

 一方で、家事育児を夫婦でシェアすることが当たり前になっているヨーロッパの国では、「カットしなければやっていけないものはカットする」という人も少なくありません。

 パリに住んだ経験のある武村若葉さんによると、街中に冷凍食品を売るスーパーがあり、平日はそこで買って済ませる人も少なくないそうです。手のこんだ食事を作る時間よりも子供と一緒にいる時間を大切にしようとする意識が高いようで、日本も見習うべきところだと感じました。

 3位にランクインした、「女性社員は扱いにくい」等の偏見に関しては、実際に新村弁護士がこれまでに扱ったマタハラの現場でも同じケースがいくつかあるとのことです。これにはやはり「男はこう」「女はこう」という単純な男女二元論で物事を理解しがちな企業風土に原因があると考えられます。

 また、つい「性別」というフィルターを通して物事を見てしまう人も少なくありません。本来は、自分の性別を明確に認識する機会は、トイレに行く時、下着を身に着ける時、性行為やそれに関連する話をする時などを除けば、日常生活や仕事をする上ではさほど多くはないはずですが、必要以上に「男性メガネ」「女性メガネ」をかけて物事を見てしまいがちです。

 たとえば、私もメディア等からの質問を受ける時に、たまに「男性としてどう思いますか?」と聞かれるのですが、どうしてわざわざ「男性として」なのか、いつも疑問に思うのです。「A型としてどう思いますか?」「黄色人種としてどう思いますか?」とは聞かないのに、ことさら性別に関しては必要以上に強調されがちです。

 このような「性別フィルター」をしっかりと自覚して、意識して排除しないうちは、「女性は感情的」等という単純かつ誤った認識はなくならないでしょう。男性のほうがライフスタイルは固まり易いので、こうしたことに気がつく機会が少ないという構造上の問題もあります。ですので、今後は企業でのセクハラ研修にそのような認知の問題も含めるべきだと思うのです。

妊娠・出産・育児と仕事の両立

 アンケートの最後は、長時間労働に関連して、女性が働きにくい職場環境を作っている要因をあげて頂いたところ、結果は以下の通りとなりました。

【表3】拡大【表3】

 当たり前のことですが、長時間労働はどうしても妊娠・出産・育児と物理的に両立できません。育児に関しては男性も同じですが、長時間労働を解消しないと、子を持つ人の働き方は改善しないと言えるでしょう。

 新村弁護士はマタハラ案件もいくつか裁判を担当してきたとのことですが、被害者の方々は「これから子供を産もうという人たちが自分のようになって欲しくない!」という思いが強く、今後同じことは繰り返さないと会社に約束させて和解をする人も多いとのことです。

 NPO法人マタハラNetの小酒部さやかさんも、退職してしまったものの、妊娠・育児中の女性に対して法令や就業規則に定められた保護制度の周知・実施を会社に約束させたそうです。制度の周知・実施は望ましいことですが、その一方で、誰か一人が犠牲にならないと変えられない現状にはとても悲しい気持ちになります。

 「後から後からブラック企業が出てくるので、際限ないモグラ叩きをしている感覚になりませんか?」と新村弁護士に聞いたところ、「ワタミやアリさんマーク引越社のように社会的な制裁が与えられて、社会的に評価が落ちたりするケースもあるので、声をあげることは大事だし、その積み重ねでブラック企業は淘汰されていくと思う」とおっしゃっていました。

 その一方で、舛添前都知事が厳しい社会的制裁を受けたにもかかわらず、週3日しか登庁しなかった石原元都知事が社会的制裁を受けなかったのはやはりおかしいと感じます。これと同じことで、ブラック企業にも、社会的制裁だけではなく、しっかりとしたフェアな法的基準で、どんなブラック企業にも等しくより強い法的制裁を課す制度も同時に設ける必要があると言えるでしょう。

まだまだ多いブラック企業

 今後の労働における法律のあり方に関しては、やはり労働時間の上限規制と勤務間インターバル規制を導入するべきであるという話が新村弁護士からありました。EUでは現在11時間のインターバル規制が導入されており、一刻も早く日本でも導入されるべきだと私も思います。

 先日、日本でもKDDIが8時間のインターバル規制を導入したことがニュースで報じられましたが、私は「『8時間』って寝るだけの時間では?」という感想をもちました。

 ところが、どうやら8時間でも制度を導入するのに苦労したそうです。労働者側からも抵抗があったようで、長時間労働をしている人たちは納期に間に合わせるために“真面目に働いている”という自覚があるので、インターバル規制を導入されると「真面目な仕事ができなくなる!」と感じてしまうそうです。

 ですが、もちろんそのような状態がスタンダードであってはいけません。今後はインターバルかつ労働時間の上限ありきで納期を組むように、仕事のやり方自体が変わって行けば良いと思います。

女性の労働問題に詳しい新村響子弁護士拡大新村響子 東京弁護士会所属。東京都労働相談情報センター民間相談員、東京都ウィメンズプラザ法律相談員、日本労働弁護団事務局次長。取扱業務は労働事件(労働者側)、離婚(DV事案含む)、相続など。事務所は東京・有楽町の旬報法律事務所
 また、安倍政権が導入を進めている「ホワイトカラーエグゼンプション」は、「労働時間ではなく成果で給与を算定する」というコンセプトが掲げられていますが、やはり「残業代ゼロ法案」と言われているように、問題だらけの方向に進む可能性が高いと懸念する意見が新村弁護士から出ました。

 というのも、この制度は「成果で支払われる」とはどこにも書いていないのです。あくまで現在の「名ばかり管理職」のように、労働時間を適用しない人を増やすだけであり、「成果で払う」というコンセプトが全く反映されていないようです。

 長時間労働の是正や働き方改革が国会でも議論になっているにもかかわらず、なぜ産業界はこの法案を進めようとしているのかとても疑問に感じます。これ以上ブラックな職場を増殖させても経済が好転するとは全く思えないのです。

 さらに、今年の4月から施行された女性活躍推進法について新村弁護士に見解を聞いたところ、やはり真面目に取り組んでいる企業と簡単に済ませている企業に分かれていると感じるとのことでした。あくまで会社が自らを見直すための制度なので、やる気の無い会社はこれまで通り“ずぶずぶ”になったままであり、今後改良の余地があると言えるでしょう。

 新村弁護士は今回の事前アンケートの自由記述を見て、「まだまだブラック企業が多い」と感じたそうです。弁護士に相談に来る人はブラック企業で被害にあったケースがほとんどでしょうが、ほかにもそうした企業で苦しんでいる人はたくさんいて、裁判を起こせば勝てるケースもあるかもしれません。

「社員を大切にすること」を社内文化に

 ここまでは事前アンケートのランキングについて新村弁護士の見解を伺いながら話を進めてきましたが、後半は会場からの質問・意見をもとにクロストークを行うプログラムを実施致しました。そこで出てきた話を簡単にまとめたいと思います。

 職場で起こる労働問題は、法律で変えられる部分と変えられない部分があると思いますが、同じような問題意識を持った人同士で集まると、アンテナも増えて、情報感度が高まると考えられます。それにより解決する手立てが見つかる可能性も多少は上がるかもしれません。

 一方で、一人で悩んでいると辛くなってしまいます。まずは病気と同じで、早めに誰かに相談することが最も大切だという結論になりました。

 また、私はブラック企業等に騙されないためにも、小学校から身近な法律について学習する「生活と法」という科目を導入するべきだとずっと思っているのですが、新村弁護士も所属する労働弁護団では「ワークルール基本法」を作り、必修化を目指そうとしているようです。これは是非実現させてもらいたいものです。

 人事に関しては、「偏見の排除」と「聞く力」の研修を増やすことが今後必要だという意見が多くありました。個人的には「HRテック(AIが人事評価を行うこと)」に注目しています。AIであれば人間が陥りがちな主観的な偏見を省いて評価を行えるので、女性に対する偏見に多少貢献するのではないかと期待しています。

 夫の職場の理解のなさもやり玉にあがりました。夫婦が同じ会社にいるのに平気で夫に単身赴任を言い渡す事例も紹介されました。労働者の生活状況を全く加味しない仕打ちに、ショックを受けた参加者も多かったようです。

 やはり今後は、ワークライフバランスをどうするかについて、たとえ労働組合がない企業でも、会社と労働者が話し合わなければならないという法制度が必要と言えるでしょう。もちろん自分の生活状況を会社に申告することは労働者側の義務ではありませんが、労働者側が自分の生活バランスを訴える場を得られる権利の確立は絶対に必要です。

 実際に、新村弁護士は「生活時間基本法」の制定を目指したプロジェクトに参加されているとのこと。ワークルールの必修化と同様、これも絶対に実現させて欲しい法律です。

 また、新しい法律の登場を待つだけではなくて、自分たちももっとアサーティブネス(相手を尊重しつつ自分の意見を伝えるコミュニケーション)であるべきだという話も会場から出てきました。アメリカで勤務した経験のある方からは、アメリカでは「立場が弱いゆえに主張して良い」という文化があり、そこにこそ個人の強さがあるとのこと。そのような気概を女性一人一人が持つ必要もあるのではという意見でした。

 武村さんいわく、世界各国に展開しているChange.orgも、里親になって急に産休を取得する人にも寛容な雰囲気があるなど、自己開示をする文化が根付いているようです。「私は生活時間をこのように使います」と自己開示し、それを互いに尊重し合える文化が社員を大切にすることになる、こうした理念が社内に浸透していると実感するそうです。

 「社員を大切にする」という理念を掲げている会社は山ほどありますが、単なる理念ではなくて実行力のある仕組みに落とし込む、それが社内文化にまで至っている会社は少ないでしょう。是非ともこのような企業が日本でも広がって行けば良いと思います。

 「自分はバリバリ仕事をしたいと思っている女性ですが、会社にそのような雰囲気がないのでどうすれば良いですか?」という質問も寄せられました。それに対して、登壇者からは「ロールモデルがいない場合は、男性でも良いのでメンターを見つけると良いのでは?」「資格をとったりして自分の実力をなるべく可視化すると良いのでは?」「自分しかできない仕事を増やすと良いのでは?」「それらを上司に常にアピールしておくと良いのでは?」等のアドバイスがありました。

 最後のグループディスカッションも大いに盛り上がり、あっという間に会は終了となりました。次回は少し様態を変えて、前半は読者会や哲学カフェ形式にして、後半はそのディスカッションで出たアイデアを、実際にChange.orgでアクションを起こしてみる計画を考える等、より中身の濃いものにして行こうと考えております。詳細が決まりましたら告知致しますので、是非楽しみにお待ちください。

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筆者

勝部元気

勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家

1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら

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