評価される過激な日本の作品
2016年09月06日
知られざるロカルノ国際映画祭リポート(上)――専門家にも一般客にも愛される工夫と企画
今回ロカルノに出た邦画3本は相当に尖っている。来年2月公開の『バンコクナイツ』は、タイ・バンコクの日本人向け売春宿で働くタイ女性とそこに群がる日本人を描く。
富田克也監督の前作『サウダージ』で描かれた甲府で生きる人々のどうしようもない閉塞感が、今度は売春宿の人気一番の女性と元自衛官の日本人の愛を中心に、世界規模の大きなスケールで描かれる。
全編タイ・ロケだが、海外に生きる人々をこれほどのリアリティを持って描いた作品が、これまでの日本映画にあっただろうか。日本とアジア、都市と農村という現代の問題の根源に迫る、世界の資本主義を裏側から描く渾身の作品だと思う。
富田克也監督は「ロケハンやスタッフ探しなどを含めて製作に4年をかけた」と語っていたが、その厚みが全編に感じられる。監督自身が演じる主人公の「日本にいるところはないんだよ」というセリフが心に沁みる。
今冬公開の『風に濡れた女』は、日活ロマンポルノへのオマージュとして日活が製作したなかの1本。従って性行為がふんだんに出る成人映画なので、映画祭でも3回のうち2回の上映を23時と23時半からに設定し、「観客によっては感情を傷つけられる可能性がある」との但し書き付きでの上映だった。しかしながら愛とセックスの不条理を軽やかにユーモアたっぷりに描くセリフと演出に、23時からの上映会場は沸きに沸いた。
そのうえ、ロマンポルノの傑作『恋人たちは濡れた』(1973年、神代辰巳監督)まで特別上映するという念の入れようだ。確かに、これを見ると『風に濡れた女』はこの映画の終わったところから始まることがよくわかる。塩田明彦監督は、「こんな低予算の映画をコンペに選んでもらったことが嬉しい。日活ロマンポルノへのリスペクトを感じる」と語っていた。
日本で上映中の『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也監督)は暴力衝動に憑かれた若者を描く。何を考えているのかさっぱりわからない主人公を演じる柳楽優弥の不気味な姿が、強烈に印象に残る。
3本ともに相当に過激な作品ばかりで、出品されたことだけでも驚くのに賞まで取るとは思わなかった。
ただし、この3人の監督はいずれもロカルノは2度目。初期の作品から発掘し、きちんとフォローしてきた映画祭の姿勢がうかがわれる。富田克也監督は「前作の『サウダージ』に続いて、今回再びこの映画祭にラブコールを受けたことは嬉しかった」と語った。
米国の映画雑誌「フィルム・コメント」誌の電子版には、『風に濡れた女』と『ディストラクション・ベイビーズ』を絶賛する記事が載った。
「最近の西洋の観客は、日本映画はおとなしくなったと感じているのではないか」との書き出しで、
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