空間描写の素晴らしさ
2016年09月12日
黒沢清作品の最重要ポイントのひとつは、空間設計および空間描写である。
たとえば、入念に選ばれたロケ場所や、綿密に設計されたセット空間を、どのようにカメラで切り取るか。光の加減をどうするか。家屋の外観や、室内の居間、階段、窓、廊下、壁、扉、カーテンなどを、あるいは屋外の、道、庭、公園、空き地、林、草むら、水辺などを、どう画面に収めるか。それらのスペース内で、役者をどう動かすか、風をどう吹かせるか……。
まず『クリーピー』の要(かなめ)のひとつが、高倉家、西野家、田中家がコの字状に3軒並んでいるという家屋の配置/立地であることは、いうまでもない。――序盤で、西野が6年前、その家族にパラサイトし支配し崩壊させた日野市の本多家、水田家も、やはり当時の西野の家を真ん中にしてコの字状に配置されていた事実に、高倉は気づく。
またラスト近く、西野は(顔の片側をギュッと引きつらせ)望遠鏡をのぞき、コの字状に隣接した3軒の家を目ざとく発見する……という風に『クリーピー』は、家屋の隣接性につけ込み家族乗っ取りを遂行する西野の、奇妙に“合理的”な犯罪を軸にした<隣人スリラー>の傑作でもある。
さらに部屋同士の隣接性が異様にきわだつのは、西野が澪/藤野涼子やその家族を拉致監禁している、彼の自宅の半地下である。――凄惨きわまりない残酷劇がくりひろげられる、廊下によって1階とつながったその部屋は、しかし過度の生々しさは減殺(げんさい)されている。その造りが、いくぶん古典的な怪奇ホラーの趣のある、ケレン味たっぷりの、人工的で幻想的なセット空間だからだ(それでも十分恐ろしいが)。
たとえば、死体をビニール袋に封入して真空パックする(!)ための
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