「ひいきのチーム」をつくるために
2016年10月04日
7月10日に行われた参議院選挙は、昨年(2015年)6月の改正公職選挙法の成立を受けて、18歳、19歳の若者が投票した初めての国政選挙だった。
『18歳からの民主主義』(岩波新書編集部編、岩波新書)もその一冊だ。18歳から101歳(先日惜しまれながら逝ったむのたけじ氏)迄、35人の執筆者が名を連ねる。
「はじめに」で編集部は「本書を読んで、みなさんの中に民主主義を盛り返すパワーが生まれることを願っています」と書いている。この一文から、現在民主主義が何かに押され気味であり、若い人たちの力で押し戻して欲しいとの編集部の期待が読み取れる。言い換えれば、自分たち「大人」は失敗したから若者よ頼む、と言ってもいるわけだ。
その割には、「大人」たちの語り口が総じて教科書的、上から目線なのだ。「政治は他人事ではない」「選挙は大事だ」、そんなことは、「主権者教育」などと大上段に構えなくても、若者たちも、どこかで、或いはあちこちで何度も聞かされている。むしろ聞き飽きているかもしれない。
そこに新しいメッセージ、説得力を盛り込むには、若者たちの関心を引く問題を具体的にわかりやすく、かつ新しい形で提示する文章が求められる。各執筆者それぞれ新書版3〜8ページの分量でそれは困難であり、「政治と選挙は大事」というテーゼを核に、総花的に論点の紹介が並べられただけに終わっているのも無理もない。
斎藤美奈子は、『ちくま』2016/8号で、この本の「勉強臭」に嫌悪し(ぼくが「上から目線」を感じたのと同じで、同意する)、「だいたいさ、一本一本の論文が長すぎるよね」と言っているが、ぼくはむしろ短かすぎて件のテーゼ以外は伝えられていないように思う。
つまり、斎藤の「みんな、自分がいいたいことをいっているだけで、相手(選挙に関心がない若者たち)への想像力が足りないのさ」という感想には同意するが、同時に「相手(選挙に関心がある若者たち)への想像力」も不足していると思うのだ。
彼ら彼女らは、「上から目線」で「大人」から「政治は他人事ではない、選挙は大事だ」と語り掛ける「大人」たちよりも、様々なしがらみにまとわりつかれていない分、政治に対して真摯に向き合っているのではないか? 40年前の我が身、我が友人たちを思い起こしても、それはあり得ることだと思う。「18歳からの民主主義」への期待を担保するのは、むしろそのことの方ではないのか?
ぼくには『18歳からの民主主義』をはじめ他の本たちの若い世代へのメッセージが、その「上から目線」ゆえに、選挙に関心がない若者たち、選挙に関心がある若者たちの両方に届いていないと思えてならないのだ。
総務省発表の投票率は、18歳で51.17%、19歳で39.66%。有権者全体の54.70% を下回っていることを言挙げする向きもあるが、いきなり選挙権を与えられた18歳の若者たちの半数以上が投票所に向かったことを評価してもいい。
むしろ問題なのは、19歳の投票率が18歳より10ポイント以上も低いことであり、さらに20代は投票率が低い傾向がある(2013年は33.7%)ということではないだろうか?
高校での「主権者教育」が奮闘したという面もあるだろう。一方、20代の低投票率には、進学、就職に際して転居しても住民票を移さないなどの原因もあるという。だが、それ以上に、社会のしがらみに絡め取られ始め、日々の生活の中で政治への期待が急速にしぼんでしまっていると見ることもできるのではないか。そのことの方が問題ではないだろうか?
その点で、ぼくは斎藤美奈子の『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書)を高く評価したい。
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