数値化できない“人的要素”の勝利
2016年11月08日
86歳という、ハリウッドの現役監督では最高齢のクリント・イーストウッドが、実話にもとづく『ハドソン川の奇跡』を撮った。監督デビュー作の傑作スリラー、『恐怖のメロディ』(1971)から数えて35本目の作品だが、2009年に起きた未曽有の航空機事故からの生還劇、および英雄となったチェスリー・“サリー”・サレンバーガー機長が一転、乗客を危険にさらした容疑者として召喚される顛末が描かれる。
そんな絶体絶命の状況下、経験豊富なサリー機長(トム・ハンクス)は瞬時の判断により、きわめて困難なハドソン川への不時着水を“奇跡的”に成功させ、乗員乗客155名の全員が無事に生還する(離陸から5分弱で着水、その後の乗客の救出は24分間で完了した)。
ところが前述のように、サリー機長に思わぬ疑惑がかけられる。ハドソン川への不時着水は危険すぎる無謀な判断ではなかったか? ラガーディア空港に引き返す、あるいはニュージャージー州ティターボロ空港への緊急着陸、という選択肢もありえたのでは?……国家運輸安全委員会の追及は、サリーを追い詰める。マスコミも委員会の聴聞に追随するかのように、サリーの決断に疑惑を投げかける。
そんな中、サリーの不安、戸惑い、プロとしての矜持(きょうじ)が交錯する。そして、副操縦士ジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)ら乗員や、健気な妻(ローラ・リニー)だけが孤立したサリーを支える。
委員会側は公聴会で、不時着水ではない、<ありえたであろう空港への緊急着陸>のコンピューター・シミュレーションを提示し、サリーを問いただす。だがサリーは、そのシミュレーションには、鳥との衝突後、彼がハドソン川への不時着水を決断するのに要した35秒間(!)を計算に入れていないと指摘し、シミュレーションのやり直しを要求。そして新たなシミュレーションにより、サリーの“究極の判断”が正しかったことが証明されるが、彼はそこで、高度に発達したコンピューター・システムもそれをコントロールする“X”、すなわち数値化できない「人的要素(ヒューマン・ファクター)」が不在なら誤りを犯す、といった意味の決め台詞を口にし、その場をしめる。さすがイーストウッド、心憎い演出だ――。
だがそれにしても、航空史上でも例を見ない飛行機事故からの生還劇を題材にしながらも、
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