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愛と憎しみをたぎらせる明日海の美しさを最大限に

【公演評】花組「雪華抄」「金色の砂漠」

さかせがわ猫丸 フリーライター


拡大「金色の砂漠」公演から、ギィ役の明日海りお=岸隆子撮影
 花組公演、トラジェディ・アラベスク「金色(こんじき)の砂漠」が11月11日、宝塚大劇場で初日を迎えました。奴隷と王女の禁じられた恋を描くオリジナルミュージカルで、トップスター明日海りおさんが究極のはまり役に挑戦!? あでやかな日本物ショー、宝塚舞踊詩「雪華抄(せっかしょう)」とともに、華やかさと情緒たっぷりな舞台で、本作で退団するトップ娘役花乃まりあさんの花道も飾ります。

 1幕は明日海さんがトップになってからは初の日本物ショー、「雪華抄」。通常公演とは順番が変わり、お芝居が2幕になります。著名デザイナーの丸山敬太さんが手掛けた色とりどりの美しい衣装と、これが初のショーとなる原田諒先生のスピード感ある演出が飽きさせません。花鳥風月に彩られ、豪華絢爛な舞台が繰り広げられました。

 2幕のミュージカル「金色の砂漠」で明日海さんが挑むのは、なんと奴隷の役。これまでトートやフェルゼン、光源氏やビルなど、シリアスからコメディーまでさまざまな役にふんしてきましたが、やはり一番似合うのは “苦悩する美青年”!? トップスターには衝撃的な虐げられるシーンも含め、愛と憎しみをたぎらせる狂気にも似た苦悶の姿が、明日海さんの美しさを最大限に引き出していました。

 明日海さん演じるギィが幼い頃から仕える王女タルハーミネ役には、この公演で退団する娘役トップスターの花乃さん。ギィへのあてつけのごとく、柚香光さん演じる他国の王子テオドロスと婚姻を表明したことから2人の均衡が崩れ、禁断の世界へと足を踏み入れてしまいます。

 ギィの奴隷仲間ジャーには芹香斗亜さん。穏やかで常に冷静さを失わず、直情的なギィとは対照的でさわやかな魅力にあふれ、ストーリーテラーの役割もつとめていました。

 奴隷と王女の恋物語など実際にはありえないからこそ面白い。プログラムで演出の上田久美子先生が語る「美しい非日常」は、まさに宝塚ならではのロマンチックな世界です。乾いた砂漠に吹く熱風のような明日海さんの情熱的な演技も、客席を魅了しました。

テンポよく展開、エネルギッシュな日本物ショー

拡大「雪華抄」公演から、明日海りお(右)と花乃まりあ=岸隆子撮影
 今回は日本物のショー「雪華抄」から、華やかに幕が開きました。チョンパで一斉に明るくなり、まぶしい舞台が目に飛び込むと、客席からも思わずため息まじりの歓声が上がります。丸山敬太さんがデザインした主要キャストの着物はいずれも色鮮やかで、一人として同じ柄はありません。衣装を愛でるだけでも胸が躍ってしまうのは、日本物ショーならではですね。

 明日海さんと柚香さんが鷹と鷲にふんして戦うシーンや、ロマンチックな世界観が広がる七夕幻想、いなせな男女が歌い継ぐ民謡メドレー、ストーリー仕立ての安珍と清姫など、味わいが異なる場面が次々登場し、見どころも満載です。テンポよく展開するので、若い方でも楽しめるエネルギッシュなショーとなりました。

透き通るような美しさを際立たせる明日海

 そしていよいよ2幕が、「金色(こんじき)の砂漠」。舞台の幕にゆっくりと歩くラクダが映し出され、開演前から乾いた砂の国を連想させます。幕が上がると砂漠に一人座る明日海さん、プログラムと同じポーズなのが心憎い。真っ白な衣装に身を包み、自らの境遇を憂うかのようなまなざしが、透き通るような美しさを際立たせていました。作・演出は「月雲の皇子」「翼ある人々」「星逢一夜」と次々名作を生み出し、繊細な世界観で女性のハートをがっちりつかんだ上田先生とくれば、期待はいやがうえにも高まろうというもの。

――砂漠の古代王国イスファン。出生を知らない奴隷ギィ(明日海)は、幼い頃から第一王女タルハーミネ(花乃)に仕えている。第二王女ビルマーヤ(桜咲彩花)に仕えるジャー(芹香)、第三王女シャラデハ(音くり寿)に仕えるプリー(瀬戸かずや)と共に、「奴隷は砂や土と同じ」と虐げられながらも、誇りは常に忘れなかった。やがてギィは美しく傲慢(ごうまん)なタルハーミネに恋心を抱くようになるが、ジャハンギール王(鳳月杏)は、北の大国ガリアの王子テオドロス(柚香)をタルハーミネの婿に迎え入れようとしていた。

深い演技を必要とする難役で、最後を飾る花乃

拡大「金色の砂漠」公演から、ギィ役の明日海りお(左)とタルハーミネ役の花乃まりあ=岸隆子撮影
 花乃さん演じるタルハーミネは、美しくて気高いお姫様。豪華な衣装からのぞく引き締まったお腹も見事です。幼い頃から常にそばにいて力強く守ってくれるギィは、奴隷とはいえ、いわば幼なじみのようなもの。そこに恋心が生まれるのは、ラブストーリー的には自然な流れでした。ギィの気持ちに薄々気づきながらも、立場の違いやプライドが許さず、きつく高圧的に接するのは、ゆがんだ愛情(?)の表れでもあったのでしょう。高飛車にふるまいながらも、ギィの熱情に戸惑い揺れる様を、花乃さんは可愛らしさを失わず毅然と演じています。深い演技を必要とする難役で、最後を飾るに不足はありません。

 誇り高いギィは、表面上奴隷として従ってはいても、心は決して屈しない強さを持っていました。王女に尽くす気持ちと、彼女を自分のものにしたい欲望がせめぎあうまなざしは、恐ろしささえ感じるほど。まさに憎しみと愛情は紙一重。タルハーミネとギィは、どこか似たもの同士といえるかもしれません。

 しかし奴隷の現実はシビアでした。ムチで打たれたり、背中を踏み台にされたりと、トップスターには考えられない仕打ちの連続に、胸が痛んでしまうではありませんか。にもかかわらず、怒りと苦悩に表情がゆがむ明日海さんが美しすぎて、思わずドキドキしてしまう。そんなシチュエーションが似合ってしまう明日海さん……罪作りです。

芹香さんらしく、優しさと包容力があふれる

拡大「金色の砂漠」公演から、ジャー役の芹香斗亜=岸隆子撮影
 同じ奴隷仲間のジャーを演じる芹香さんはストーリーテラーの役割もつとめています。穏やかな性格で、第二王女のビルマーヤとも惹かれあっているのですが、互いの立場をおもんぱかって表に出すことはありません。優しさと包容力あふれるジャーは、芹香さんらしさもいっぱい。情熱的で直情的なギィとは違った魅力があって、友人としての絆も感じさせ、トップと2番手の良いバランスを生み出していました。激しいギィとタルハーミネ、癒しのジャーとビルマーヤはあまりにも対照的で、自分ならどっちのペアになりそうかな、なんて想像してみるのも面白いですね。

 瀬戸さん演じるプリーは、シリアスになりがちな中で唯一、明るくコメディータッチな役柄を担っています。わがままな第三王女シャラデハに対して常に怒っていて、実は一番人間らしいかも。最近はダンディーなおじさまが似合うようになってきた瀬戸さんですが、今回はくりくりのヘアスタイルもかわいらしくて、若々しさが新鮮でした。

 このところ演技も充実してきた鳳月さんは、黒髪をなびかせるワイルドな王様役がはまっています。ジャハンギールは他国からイスファンを侵略し、前王を殺害。王妃アムダリヤをめとって国王になったという大胆不敵な男で貫禄もたっぷり。冷血で強引なようですが、アムダリヤのことは心から愛していました。明日海さんと剣を交えるシーンもあり、存在感も抜群です。

 アムダリヤを演じるのは、次期娘役トップに決まった仙名彩世さん。落ち着いた演技から、夫を殺害した男の妻となった悲しさが伝わってきます。ギィはそんなアムダリヤを軽蔑していましたが、この2人の関係が物語の大きなカギを握っていたのです。大劇場新人公演でのヒロイン経験はありませんが、歌・ダンス・演技と三拍子そろった実力派。そんな仙名さんが認められ、トップ娘役に就任することは、とてもうれしいニュースでした。

 柚香さん演じるテオドロスは、ギィを踏み台にすることを避けるなど、ところどころに優しさをのぞかせるイケメン王子。タルハーミネとはいわゆる政略結婚ですが、素直に愛情も表現し、人間味を感じさせます。しかしすべてが自国の利益に基づいていて、実は薄情な男なのか? テオドロスは登場人物の中でも一番難しい役だったかもしれません。それでも柚香さんのきらびやかな王子様スタイルはさすがの美しさで、花乃さんの膝枕に身をゆだねるシーンには、思わずうっとりしました。

さまざまな愛の形が、美しい背景に彩られる

拡大「金色の砂漠」公演から、ギィ役の明日海りお(左)とタルハーミネ役の花乃まりあ=岸隆子撮影
――タルハーミネとテオドロスの婚礼前夜、ついにギィはタルハーミネへの思いを実らせた。情熱に身をまかせ、国を捨てて逃げだそうとした2人の前にジャハンギールが立ちはだかる。追い詰められたタルハーミネは、王家の誇りを守るため、ギィに死刑を宣告した。拷問され瀕死となったギィ。だがその目の前に、意外な人物が現れ……。

 思わぬ人に助けられ、砂漠へと逃げ延びたギィは、ラクメ(花野じゅりあ)、ザール(水美舞斗)ら盗賊の仲間入りをし、いつかイスファンに舞い戻って復讐(ふくしゅう)することを誓います。王国をも飲み込むギィの怒りはどこまで燃え上がるのでしょうか。

 狂気に満ちたギィとタルハーミネの恋。ジャーとビルマーヤの抑制された恋。ジャハンギールとアムダリヤの他者には計り知れない関係。そして、ギィの出生の秘密……さまざまな愛の形が、金色の砂漠という乾いた美しい背景に彩られ、上田先生らしい繊細な世界観で描かれました。これまでの作品のように、とことん泣かされてしまう系ではありませんが、女性らしい独特の感性にはやっぱりツボを押されてしまいます。

 芝居終わりには短いショーがつき、明日海さんと花乃さんがギィとタルハーミネに扮して踊るデュエットダンスや、ターバンを巻いた男役の黒燕尾などがあり、満足感もしっかり味わえます。パレードのエトワールは花乃さんがつとめ、有終の美を飾ります。

 宝塚歌劇では100周年以降、どの公演も大盛況が続いてきました。今年最後の大劇場公演を担う花組も連日大にぎわいで、2016年を華やかに締めくくりそうです。

◆「雪華抄」「金色の砂漠」
《宝塚大劇場公演》2016年11月11日(金)~12月13日(火)
《東京宝塚劇場公演》2017年1月2日(月)~2月5日(日)
⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。


筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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