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ローマ字表記は東京五輪に向けて変えるべき(下)

外国人のための新しいローマ字表記の提案

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

長短の表記が不可欠である

 前回(上)で書いたようなことはまだ大した問題ではない。

 はるかに大きな問題は、長音と単音をどう区別するかである。国交省が扱うのは地名であり、かつ同音異義の地名はそう多くないため、特に問題を意識しなかったのであろうが、外国人観光客と日本人との意思疎通のためには、母音の長短への配慮は不可欠である。

外国人観光客の相談に応じる警察官。左腕には英語が出来ることを示す大きな腕章を付けている=JR鎌倉駅前拡大「KOBAN」(こばん? こうばん?)の前で、外国人観光客の相談に応じる警察官=JR鎌倉駅前
 例えば「Tokyo」では長音が表記されず、いずれかの「o」を、あるいは両方の「o」を単音で発音した場合は、意味不明である。

 日本語では長音と単音は「音素」として異なる。つまりこれの区別によって意味が変わってしまう。現行のローマ字表記ではそれが区別できない点が、最大の問題である。

 東京を「とうきょう」と発音しても「ときょ」と発音する日本人はいない。「とうきょ」とも「ときょう」とも発音しない。

 北海道には「大通り」という地名がよくあるが、「大通りに行きたい」と言うとき、「Odori」の2つの「o」が長音であることを外国人が知らなければ、日本人には「踊りに行きたい」と聞こえるだろう。

 各地にある交番の入り口には「Koban」と記されているが、私には「小判」に見える。外国人に「こばん、どこ?」と聞かれて、意味が分かる日本人はまずいないだろうし、「こばーん」だったら絶望的であろう。

 長音を記すためには、母音の上(いま上としておくが、後述する理由で下にも必要になる)に「‐」を記すのがよい。あるいは、欧米のものをありがたがる日本人にこれでは野暮ったく見えるなら、フランス語のアクサン・シルコンフレックス(ねじれアクセント)を借りて「^」と記してもよい。ただし、後述するように母音の下におく場合を考えれば、また書きやすさからも理解のしやすさからも、「‐」の方がよい。

 つまり、大通りはŌdōri、交番はkōban、東京はTōkyōと記せば、外国人と日本人のコミュニケーションははるかに容易になる。

高低の表記も不可欠である

 だが、これによってはまだ、日本語の一大特徴である音の高低が全く識別できない。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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