黒石悦子(くろいし・えつこ) フリーライター
エンタメ情報誌の演劇担当を経て、フリーライターに。関西の小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、舞台を中心としながら、映画、音楽、アートなど幅広いジャンルを取材・執筆。飲み歩き好きを活かして、時には酒場取材も。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で念願の主演
2010年に宝塚歌劇が日本初演を果たし、翌年にはオーディションで選出されたキャストにより、日本オリジナルバージョンが上演されたフランス版ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』。若者の情熱をポップ&ロックな楽曲で表現し、純粋な愛を美しい楽曲でドラマチックに彩った作品で、アクロバティックなダンスも見どころのひとつ。上演されるたびに注目を集めるこの人気ミュージカルが、新たなキャストを迎えて4年ぶりに再演される。
今回、その新キャストとしてオーディションを受け、ロミオ役を射止めたのが大野拓朗。NHK大河ドラマ『花燃ゆ』や連続テレビ小説『とと姉ちゃん』などに出演し、注目を集める期待の若手俳優だ。ミュージカルは2012年の『エリザベート』ルドルフ皇太子役を務めて以来2度目の出演で、実に5年ぶりの挑戦となる。「『ロミオ&ジュリエット』がミュージカル作品の中で一番好き」という大野に、その思いを聞いた。
――ご自身が大好きな作品で主演できることになって、今の心境を教えてください。
憧れていたロミオとして歌えることが本当にうれしいです。2012年の『エリザベート』以来4年間、ずっと歌のレッスンを続けてきましたし、移動中には城田(優)君と(山崎)育三郎さんが出演された『ロミオ&ジュリエット』初演版のCDを毎日聴いて、歌っていたんです。それを実際に稽古場で歌っていると、本当にきれいな曲だなと改めて感じますね。
――ミュージカルの中で“一番好き”とのことですが、どういうところに惹かれたんですか?
一番は楽曲です。初演を拝見して、全曲好きなミュージカルに初めて出合い、衝撃を受けました。4年間ずっと聴いていたし、今も稽古で毎日繰り返し歌っていますけど、自分でも驚くくらいまったく飽きないんです。何パターンもプレーリストを作って聴いていたので、ロミオのパート以外も全曲歌えますよ(笑)。それに若いキャストが多いけれど、ダンスも歌もレベルが高くて、エネルギーに満ちあふれている。それがすごくカッコ良くてワクワクしましたし、ベテランの方々が締める空気とのバランスも良かった。そして、シェイクスピアの持つ美しい世界観と、衣裳も海外ブランドのコレクションにありそうなデザインで、私服でほしいと思えるくらいカッコいい。すべてが僕の心に響きました。
――実際に稽古場で歌ってみて、印象はいかがですか?
すごく難しいです。今まではただ趣味で、人の真似をして歌っていただけだったので。でも少しずつ、自分の歌にできるようになってきたかなと感じています。特に難しかったのは一幕の最初の『いつか』ですね。「女たちは僕のことを追いかけてくる、何もしなくても。遊びならば何人かと付き合ったけれど、虚しいだけ」っていう歌詞があるんですけど、ただ芝居するだけじゃ気持ちが入らない。ロミオの気持ちは分かるんですけど、今、恋心があるわけじゃないので、少し歌いづらいですね(笑)。小池先生からも、「恋愛のドキドキ感を感じられない」とずっと言われています。僕はズバ抜けた歌唱力があるわけじゃないので、その分芝居でカバーしていかないといけない。ロミオが自分にしっかりと入ってきて、ジュリエットにちゃんと恋することができたら克服できるのかなと思います。小池先生には、人生2度目のミュージカルでロミオに抜擢してくださった感謝の気持ちがあるので、全力で演じていい作品を作り、恩返ししたいと思っています。
――ここを見てほしい!と思うところはありますか?
この世界に入って、初めての“ザ・恋愛物”で、初めての“ザ・二枚目”の役なんです。だから、僕が甘いセリフを言うのも役者人生で初めて。それに悲劇なので、最後の方は憂いを帯びた色っぽい雰囲気も出せたらと思っていますので、大野拓朗史上初の色っぽさを、お客様に感じていただくことが目標としてあります。あとダンスも結構カッコ良く踊れるようになったと思います。楽しみにしてほしいと、胸を張って言えるくらい成長して来ていると思いますね。
――ロミオは周りが見えなくなるほどにジュリエットを愛しますが、その気持ち分かりますか?
恋愛に溺れることに憧れはありますけど、そこまでの経験がないので最初は全然分からなくて(笑)。でも役者という仕事に出合って一目ぼれして、この仕事と心中したいと思うほど好きになった。恋愛とは全然違うと思いますが、この気持ちをリンクさせることはできるのかなとも思っているんです。それと、ロミオはジュリエットと出会うまでいろんな女性と遊んでいたと、言葉ではそうなっていますが、僕はきっと誠実に一人ひとりと向きあっていたんだろうなと思うんです。でもなぜか心の隙間が埋められなくて、寂しさや虚しさを感じていた中でジュリエットと出会ってその穴が埋められた。だから突っ走れたんだろうなと思います。彼の根本には誠実さがあって、一生懸命生きているから、周りの人たちが助けてくれるのだと思うので、その誠実さを大切に演じたいと思っています。
――心中してもいいと思えるくらいの仕事に出合って、着実に経験を重ねられていますよね。朝ドラ『とと姉ちゃん』で青柳清役として出演された後、反響はありましたか?
お声掛けいただくことはすごく多くなりました。特にご年配の方々に街中で握手を求めていただくことが多くて、すごくパワーをいただけます。ロケで伊勢神宮に行ったときも、おばあちゃんたちに囲まれているところを、おじいちゃんがカメラで撮影しているっていう構図もできたりして(笑)。あの役は結構こだわって、計算して演じていたんです。僕は「いつでも笑顔でいられるように」というのが座右の銘で、自分自身も笑顔でいたいし、周りの方々にも笑顔でいてもらいたい。僕を見てくださった皆さんが、笑顔になってくれたらという思いでこの仕事をさせていただいているので、朝から僕を見て笑ってもらえたらいいなと思って役を作っていたんです。だから、そうやって反響があるのはすごく嬉しいなと思います。
――舞台はダイレクトにお客様の反応が返ってくると思いますが、演技をするにあたって映像と舞台で感覚は変わりますか?
一生懸命芝居をするということは同じなので、そこまで気持ちは変わらないですね。でも拍手をいただけたり笑ってもらえたり、その反応は早く感じたいですね! 今までは演じることに精いっぱいで、反応を感じる余裕がなかったのですが、今回のロミオはすごく楽しみです。観てくださる皆さんからのパワーをもらいながら、ロミオとしてどんどん成長していけたらと思います。
――舞台に立つときは、緊張するタイプですか?
ものすごく緊張に弱くて、セリフを言いながら実は手が震えていたりします(笑)。『エリザベート』のときもデビューしてまだ3年で、芝居の経験も浅い中で挑戦させていただいたので、最後の最後まで足が震えていました。でもそこからいろんな経験を積んできましたし、今回は緊張せずに自信を持って臨めるくらい、稽古していきたいなと思っています。
――ロミオ役は、前回も出演された古川雄大さんとWキャストですね。
できるなら両方観ていただきたいです! 僕自身、本当に大好きなミュージカルで、僕と雄大さんとではパーソナリティーが全然違うから、その違いを楽しんでいただけると思います。僕も初演のときにWキャストをそれぞれ観て、こんなにも変わるんだと実感したので、いろんな楽しみ方をしていただきたいですね。この作品を最大限楽しんでいただいて、愛してもらえたらいいなと思います。
◆公演情報◆
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
2017年1月15日(日)~2月14日(火) 東京・TBS赤坂ACTシアター
2017年2月22日(水)~3月5日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
[スタッフ]
原作:ウィリアム・シェイクスピア
作・音楽:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
[出演]
古川雄大/大野拓朗(Wキャスト)、生田絵梨花(乃木坂46)/木下晴香(Wキャスト)馬場徹/矢崎広(Wキャスト)、平間壮一/小野賢章(Wキャスト)、渡辺大輔/広瀬友祐(Wキャスト)大貫勇輔/宮尾俊太郎(Kバレエカンパニー)(Wキャスト) ほか
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