高原耕平(たかはら・こうへい) 大阪大学文学部博士後期課程
大阪大学文学部博士後期課程(臨床哲学専攻)。大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム所属。1983年、神戸生まれ。大谷大学文学部哲学科卒。研究テーマは、トラウマに関する精神医学史、ドイツ哲学、阪神淡路大震災。最近の論文として、「反復する竹灯篭と延焼 阪神・淡路大震災における〈復興/風化〉と追悼の関係」(『未来共生学ジャーナル』3号、2016年)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
独特の言語世界と特異なメディア展開
ツイッター翻訳小説『ニンジャスレイヤー』第3部が完結した。2016年の秋からは主人公が交代した第4部が始動。140字ずつ投稿される物語をファンが「実況」しながら読むという、全く新しいかたちの小説である。
2010年から突然ツイッター上で連載が始まり、今やフォロワー数は6万5000人。ツイッター連載をもとにした「物理書籍」はこれまで17冊が出版され、2015年春にはアニメ化もされた。
パンクSF世界を舞台に個性的なキャラクター達が戦うサブカルチャー的作品だが、同時に格差社会の息苦しさを軽妙に描き出す現代文学でもある。『ニンジャスレイヤー』の挑戦と可能性を紹介したい。
だがその時、ラオモトの目に信じがたい光景が映る。ニンジャスレイヤーもまた、大きな吐血とともに辛うじて息を吹き返し、糸につられたジョルリのごとくその身をもたげたのだ!そして酔歩するようなブザマな動きでジュー・ジツを構え、ラオモトにすり足で接近してゆく!「ニンジャ……殺す…べし……」
— ニンジャスレイヤー (@NJSLYR) 2011年6月1日
(第一部「ネオサイタマ・インフレイム/ダークダスク・ダーカードーン」より)
『ニンジャスレイヤー』(ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ著、本兌有&杉ライカ訳)は短文投稿サイト・ツイッター上で連載されている翻訳小説である。1回の「掲載」は約20ツイートほどで、数十秒ずつの間隔を置いて公式アカウントから小説の本文が連続投稿される。3〜5回分の掲載で、一つのエピソードが完結する。
物語には「ニンジャ」と呼ばれる、様々な異能力を持った人間が登場する。強いて喩えるなら、アメコミ由来の映画『X-MEN』や『アベンジャーズ』シリーズの登場人物に近い。こうしたニンジャのほとんどは「ソウカイヤ」「ザイバツ」「アマクダリ」といった悪の組織に所属している。主人公は平凡なサラリーマンだったが、妻子を悪の組織のニンジャに殺され、その仇を討つため「ニンジャを殺すニンジャ=ニンジャスレイヤー」となった……というのが物語の基本的な枠組みである。
「「「ニンジャ殺すべし。だが、俺の供えるセンコは、本当にフユコやトチノキの魂を慰めているのだろうか。彼らは、オーボンの夜にも還らなかった。俺は、正しいのだろうか。俺は本当に、正気なのだろうか」」」
— ニンジャスレイヤー (@NJSLYR) 2010年11月24日
ひときわ大きな三本脚の鴉が、生首から片眼を抉り出し、顔を上げてごくんと呑みこんだ。
(第一部「メリー・クリスマス・ネオサイタマ」より)
悪役のニンジャが登場し、一般市民を虐げるが、最後にニンジャスレイヤーが登場して殺す。毎回のエピソードはおおむねこのような展開で起承転結してゆく。再び喩えるなら、『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』のようなスタイルだろうか。
ただしそれらの作品と異なるのは、「ニンジャスレイヤー」はあくまで自分の復讐のために敵のニンジャを殺戮しているのであり、必ずしも正義の味方ではない、ということだ。日本では珍しい、ダークヒーロー型の主人公である。
『ニンジャスレイヤー』が多くのファンを獲得しているのはなぜか。魅力の第一は、
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