黒石悦子(くろいし・えつこ) フリーライター
エンタメ情報誌の演劇担当を経て、フリーライターに。関西の小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、舞台を中心としながら、映画、音楽、アートなど幅広いジャンルを取材・執筆。飲み歩き好きを活かして、時には酒場取材も。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ミュージカル『キューティ・ブロンド』主演
日本でも大ヒットを記録した同名映画が原作のブロードウェイ・ミュージカル『キューティ・ブロンド』。ハッピーで爽快なストーリーとポップな音楽で観客の心を掴み、ブロードウェイではトニー賞7部門ノミネート、イギリス・ウエストエンドではオリヴィエ賞3部門を受賞。そんな世界各地で人気の作品が、日本初上陸を果たす。本作は、恋もオシャレも勉強もすべてに全力投球の主人公・エルが、周囲の偏見や困難を吹き飛ばしていく姿を描いた物語。そのエル役を務める神田沙也加が、大阪で行われた取材会で意気込みを語ってくれた。
記者:まず、本作で主演することが決まっての心境をお願いします。
神田:幼少期から観てきた東宝ミュージカルで初主演が決まり、非常に恐縮する気持ちと、楽しみな気持ちが両方あったのですが、もう数カ月後には公演が始まるので、座長として少しずつ自覚を持っていかなければならないなと思っています。
記者:原作の映画をご覧になっていれば、その印象を教えてください。
神田:ガールズムービーで、可愛らしいものが好きな女の子が好きな作品だと思います。ピンクのパッケージで、リボンとかヒールとか、女子が好きなモチーフがたくさんあふれていて、最初はそれに惹かれて観たのですが、実際にはエルのサクセスストーリーなんですね。エルは見た目で判断されがちな女の子で、挫折体験から始まって、そこから弁護士を目指すというもの。そこへの進み方がエルらしくて、物事の解決の仕方も、彼女が好きなものの知識で解決していくという……自分の好きなものを貫いて進んでいく姿がすごく好きで、何度も見返しました。
記者:何度も見返していた作品を自身が演じることになって、また見方が変わったのでは?
神田:映画だけじゃなくて、10年ほど前にブロードウェイ版も観たんです。そのときのパワフルさがすごく印象に残っていて、とにかくエル役の人がずっと出ずっぱりで歌って踊って、すごいエネルギーだったんです。作品を観るときに“この役を自分がやるとしたら…”って妄想して観る癖があるんですが、凄すぎてそんな妄想も浮かんでこなかったくらいパワフルでした。なので、嬉しいんですけど、“自分でやれるのかな!?”というのが第一印象でしたね。
記者:衣裳もこの世界観の衣裳が多いんですか?
神田:実際に台本のト書きにも「ピンクの服で」と書いてあったので、きっとピンク色のお衣裳がすごく多いと思います(笑)。
記者:私物でもピンクが増えたとかはないですか?
神田:結構、役に引っ張られるタイプなので、それはあると思います(笑)。キャラクターがすごく明るくて、見た目やテンションから入っていこうと思っているので、ピンクの小物などを持ち始めると思います。
記者:神田さん自身は、元々そういうものを着たり持ったり、ビジュー系のキラキラや全身ピンクとか着られるタイプなんですか?
神田:昔は着ていましたね。このポスターの衣裳はスーツなので、私の認識ではフォーマルなんですが、もっと原宿系の真っピンクのファッションをしていた時期がありました。最近は離れていたのですが、今は『キューティ・ブロンド』の期間なので、進んでピンクのスカートを取り入れてみたり、どこかに入れるようにしています。気質としては好きな方なので、身を包むことは全然抵抗がないのですが、撮影スタジオでポスター撮りをしたときに、派手すぎて二度見以上に何度見もされました(笑)。
記者:ご自身とエルの共通点はありますか?
神田:パッと思いついて、それが正しいと思ったら絶対にやるという部分は似ていると思います(笑)。エルの場合は全部成功していくのですが、私の場合はちょっと失敗しちゃったなっていうこともあったりするんですけどね。やると決めたらやるという点では似ています。
記者:最初に憧れの東宝ミュージカルとおっしゃっていましたが、改めてどういう気持ちで主演に臨もうと思われていますか?
神田:私が見てきた東宝作品の座長というのは、カンパニーのみんなからすごく慕われていて、とても眩しく、背中を見られているという印象があるんです。いつもヒロインの立場や一歩後ろから見ていることが多かったので、自分がそんな座長になれるかという不安はありますね。でも、お手本になる存在の方々は見てきたので、その姿を理想形として頭に描いて頑張りたいなと、自分を奮い立たせているところです。
記者:これまで見てきた座長さんの中で、その理想形として思い描いている方は?
神田:二人いらっしゃって、一人目が大地真央さんです。私がミュージカル女優になりたいと思ったきっかけが大地真央さんなんです。だから共演したときには360度、穴が開くほど見ていたのですが、本当に隙がないんです。瞬きのタイミングまで計算されていて、そんな風になりたいけどなれないし、越えられない存在だなと思いました。それともう一人は、堂本光一さんですね。『Endless SHOCK』という作品で、すべての場面に出て殺陣もやってフライングもやって、一作品の中に膨大な要素が詰まっているのに、疲れたとかもう無理だとかは絶対に言わないし、疲れたように見えたことも一度もなくて。私にとって、その二人が尊敬する人ですね。
記者:今回集まった他のキャストの顔ぶれを見て、どんな印象を受けられますか?
神田:交流があったのは樹里咲穂さんと新田恵海さんで、新田さんは声優アワードのときにお会いしてお話させていただきました。その他の皆さんは初めましての方ばかりなのですが、とても和やかな現場になりそうだということを聞いて、ものすごく安心しました(笑)。主演だから私がしっかりしなきゃという思いはもちろんありますが、分からないところは先輩方に聞いて、素直に、胸を借りたいなと思います。
記者:音楽の面で魅力を感じるのはどんなところですか?
神田:ポップで可愛らしくて、女の子がキャピキャピ、キャーキャーしている感じや女の子のお喋りがそのまま曲になったような、アップテンポな音楽も多いんです。そうなると、言葉が聴きとりにくくなる可能性があるので、何度も歌って自分の中に沁み込ませないといけないなというのが課題ですね。バラードでも全部プラスに向かっていくような、明るい結末に向けて進んでいく曲ばかりなので、すごく元気をもらえると思います。私は1幕ラストの『So much better』という曲がすごく好きですね。
記者:今回、出ずっぱりということで喉の体力が必要になってくると思うのですが、何かトレーニングをされているんですか?
神田:クラシカルな歌い方というよりは、ポップスのジャンルに近い曲も多いので、スタミナはもちろんですが、表現力や喋るように歌うところをいつもより強化していかなければいけないと思いますね。いつも割と喉には気を使っているほうですが、今回はもっとケアしていきたいなと思います。ピンクのマスクとか探したいですね(笑)。
記者:映画では可愛らしい犬が重要な役割をしていますが、今回の舞台でも本当の犬が出るんですか?
神田:出るんです(笑)。ビジュアル撮影のときに、実際にブルーザーというワンちゃんを抱っこして撮ったので、本番も出してほしいなと私も思っていたんです。生き物を出すときには、徹底した管理のもとでやらないといけないそうで、スタッフの皆さんがしっかり準備されて、実際のワンちゃんが登場します。私が一番慣れていないとダメだと思うので、自宅に連れて帰って一緒に寝たりして仲良くなりたいと思います。犬は昔飼っていたので慣れているのですが、今回のチワワちゃんは撮影中も震えていて(笑)。舞台に安心して出られるように絆を深めたいですね。
記者:婚約間近で突然振られて一念発起するお話ですが、ご自身も同じような体験談はありますか?
神田:私はこんなにスピーディーに立ち直れないです。彼の好みを知って“そうだ!私、こうなればいいんだ!よし大学に行こう!”とは思えないので(笑)。それは元々ポテンシャルの高い女性だからこそできることで、私はどちらかというと深くまで落ち込んで、ひどいときは何年も引きずったりすることもあるくらい。だからすごくうらやましいですね。きっと、一番違う点だと思います。
記者:『Into the Woods』でミュージカルデビューした頃からお上手ですが、これからもミュージカル中心でやっていきたいという思いはあるんですか?
神田:そうですね。日本ではまだまだミュージカルは敷居が高いと思われているところがあります。知っている人がいる食事会へは行きやすいのと同じように、神田沙也加って他で観たことがある、名前を聞いたことがある、だったら行ってみようかなって思ってもらえるような人間になりたいと思っています。まだ観たことがない方との架け橋になりたいんです。舞台以外の活動も積極的に取り組んでいるのですが、それがすべて舞台に返ってくるといいなと思います。だから、これからもミュージカルを柱として活動していきたいです。
記者:そう考えると、声優として出演された『アナと雪の女王』は、神田さんを知らなかった人が知る大きなきっかけになったと思うのですが、ご自身にとってはいかがでしたか?
神田:ターニングポイントでしたね。やっぱりすべてのことが変わりましたし、実際にこうして『キューティ・ブロンド』で主演をいただけるのも、本当にあの作品のおかげだと思います。
記者:『アナ~』の出演は、オファーがあったんですか?
神田:オーディションを受けました。それまでもずっとミュージカルをやってきていたのですが、ミュージカルをやっていなかったら多分受からなかっただろうなと思います。演じながら歌うということが、ミュージカルによって鍛えられていたんだなと思いましたね。
記者:今回の作品、同じ女性はすごくパワーをもらえそうですが、逆に男性が観ると圧倒されそうですよね(笑)。
神田:そうですね。見た目やイメージだけで判断してしまうような、上辺を大事にする男性像と、中身を見てくれる男性像という、対照的な二人が出てくるので、男性にとっては耳が痛いかもしれないですね(笑)。
記者:見せ場になりそうなシーンはありますか?
神田:出ていないシーンが本当にないので、見せ場しかないです!(笑)。いろんな歌を歌って、いろんな振りを一人でずっとやっているというのが個人的な見せ場かなと思います。こんなに出ずっぱりなのは初めての経験なので、頑張ります!
記者:この作品で、どんなメッセージを伝えたいですか?
神田:エルは、大学に行っても、周りは落ち着いた服の中、ショッキングピンクの格好で一人歩いていたりするんですよね。周りに合わせて自分の個性や考えを押し込めないで、好きなものは好きという、自分らしさを持ち続ける姿勢がすごいなと思うんです。そして自分が決めた目標からはブレないという、その二つが両立できている女性なので、同性の方の憧れや共感してもらえる存在になれるように演じたいと思います。
記者:最後に、公演に向けての意気込みをお願いします。
神田:曲もセリフもとてもボリュームがあるので、まず全部頭に入れることから始めたいと思います。映画のイメージをヒントにして、どんな衣裳もテンション高く着こなし、なるべく完コピまで近づけるようにしたいですね。そして、自分の中の積極性や社交性をかき集めて、カンパニーの皆さんと対峙しつつ、百戦錬磨のスタッフさんにも臆せず自分の意見を言いたいと思いますし、相手の意見もしっかりと聞いていきたい。あと、何よりもワンちゃんに慣れてもらおうと思っています(笑)。明るい作品ですので、観ている方にハッピーを伝えられるように、自分が一番ハッピーになって頑張ろうと思います。
◆公演情報◆
ミュージカル『キューティ・ブロンド』
2017年3月21日(火)~4月3日(月) 東京・シアタークリエ
2017年4月5日(水)~6日(木) 愛知・愛知県芸術劇場大ホール
2017年4月8日(土) 香川・レクザムホール 大ホール
2017年4月12日(水) 大分・iichikoグランシアタ
2017年4月15日(土)~16日(日) 福岡・キャナルシティ劇場
2017年4月18日(火) 広島・JMSアステールプラザ大ホール
2017年4月20日(木) 静岡・浜松市浜北文化センター大ホール
2017年4月23日(日) 福井・越前市いまだて芸術館
2017年4月27日(木)~30日(日) 大阪・メルパルクホール大阪
[スタッフ]
音楽・詞:ローレンス・オキーフ&ネル・ベンジャミン
脚本:ヘザー・ハック
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
[出演]
神田沙也加/佐藤隆紀(LE VELVETS)/植原卓也/樹里咲穂/新田恵海/木村花代/長谷川初範 ほか
公式ホームページ
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