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必見! ガレル『パリ、恋人たちの影』(上)

シンプルさと熱気の融合

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

「パリ、恋人たちの影」(C)2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINEMA拡大『パリ、恋人たちの影』  (C)2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINEMA 提供・ビターズエンド

 フランスのヌーヴェルヴァーグ(NV)は、ゴダール、トリュフォー、シャブロルらによって1950年代末に着火された“映画革命”だが、『パリ、恋人たちの影』の監督、フィリップ・ガレル(1948~)は、カラックス、ドワイヨン、ユスターシュ(81年ピストル自殺)らとともにNVの後継者である。その点でガレルは、大まかに「ポストNV」の作家と位置づけられる。

 しかし、ガレルらのキャリアはけっして平坦ではなかった。その最大の理由は、当然ながら、先達の業績があまりにも偉大だったからであり、先達と似たような映画を撮るだけでは、その亜流・模倣者(エピゴーネン)にしかならないからだ。

 よって、ガレルらの映画にはしばしば、ゴダールらの影響下から何とか脱し、暗中模索、試行錯誤の中でもがき苦しむ痛みや葛藤が感じ取れた。とりわけ、不幸にも“ゴダールの再来”などと呼ばれたガレルの場合は、恋愛を凝視しつつ孤独、嫉妬、裏切り、絶望、諦念、錯乱といったモチーフを内省的に描く彼の作風が、なにか苦行のような痛覚を発していた。

 そしてそれゆえ、彼の映画を見ることもまた、ともすれば苦行に近い経験であった(たとえば、時代も場所も不明な砂漠を謎の男女がひたすら彷徨する『内なる傷跡』(1972)に顕著な、カメラがえんえんと被写体を写しつづけるガレル的長回しを見る“修行感”――)。

三角関係から四角関係へ

 しかし、『パリ、恋人たちの影』(2015、73分)は、まったく違った。4人の男女の恋愛関係のもつれを、ガレルらしく濃密に描きながらも、その描き方がじつにシンプル、かつ軽やかなのだ。ラストでは ・・・ログインして読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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