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私がウィメンズ・マーチにノリきれなかった理由

カナダ人として感じた高揚感と周縁化による疎外感のはざまで

山田公二 カナダ在住 非営利団体職員

多様なカナダの市民が繰り出したトロントのウィメンズマーチ 2017年1月21日 邊玲奈撮影多様なカナダの市民が繰り出したトロントのウィメンズマーチ=2017年1月21日 撮影・邊玲奈

 カナダで一番の都市トロントでカナダ人として暮らす私にとって、国境を越えてすぐ南の隣国である超大国アメリカは、常に自分の意識の中に存在する国である。

 英語という共通言語を持ち、飛行機に乗ればほんの短時間でアメリカの首都ワシントンDCやニューヨーク、シカゴに時差なく行けてしまうという距離感もあって、アメリカが国境を越えた外国だという身構えはない。政治、経済、文化などあらゆる側面で日常の延長上に拡がっているような感覚で、つながりを意識する必要もないほど当然な存在である。

トランプ政権誕生へのカナダ市民の反応

 その隣国アメリカで起こったトランプ政権の誕生は、カナダの市民に政治的信条やカナダ人としてのアイデンティティを揺るがしかねない衝撃を与えている。

 トランプ氏の大統領当選が決まった瞬間から、大統領就任後すでに約1ヶ月を経た今日に至るまで、カナダのテレビ・ラジオ・新聞などの報道機関は総力を上げて、連日トップニュースでトランプ大統領や同政権の動向について事細かに伝え続けている。日を追って波及する様々な出来事をカバーしながら、その勢いは衰えるどころか増すばかりである。

 自分たちの日常の延長上に在りながら他国として存在するアメリカで、史上類のない政治的出来事が目前に展開するのを、ただ指をくわえて眺めるしかない状況の中で、カナダ市民の関心は当然ながら、アメリカ市民の反応や行動にも向けられている。

 せめて自分たちの想いや願い、同意や反発などの様々な気持ちを、アメリカの市民が示す反応や行動に投影させようと、カナダ市民は熱心にメディアの報道やソーシャルメディアからの情報に反応し続けている。そうすることで、自分たちがカナダ市民でありながら、アメリカでいま起こっている出来事に関わらざるを得ないという、宿命にも似た現実を重く受け止めているのだ。

ピンク色の連帯

 延々と繰り広げられた選挙戦を経てアメリカ大統領選がようやく決着し、いよいよトランプ氏が大統領として就任することが決まった1月中旬、何処からともなくピンクの帽子を被った女性たちのイメージがSNSでシェアされるようになった。そして、カナダに住む自分の周りの友人知人や同僚の多くが「土曜日のマーチ」について話題にすることが増えていった。

 「ワタシもピンクの帽子用意したよ」「土曜日のマーチに誰と行くの?」「娘も連れて行くの」「自分も子どもの頃お母さんに連れていってもらったことがあるよ」と断続的に切れ切れの情報が日常の会話やSNSでシェアされていく中で、どうやらアメリカ大統領就任式の翌日である土曜日に、何かが企まれていて、それは何か融和的な、それでいて何かに立ち向かおうとする行動である、という雰囲気が膨らんでいった。

 その行動には、「女性」という符号に加えて、反イスラモフォビア(イスラム嫌悪への抗議反対)や移民難民ウェルカム(トランプ大統領による外国人排斥傾向への抗議反対として)など、反トランプ=反ヘイトという明らかなメッセージが前面に強調されていることは明らかだった。

 1月21日土曜日の朝、カナダのメディアは前日のアメリカ大統領就任式の詳細を報道しながら、就任式のあったワシントンDCの同じ場所で、女性たちが集会を予定していることを告げていた。

 その頃から、私のフェイスブックのニュースフィード画面は、ほぼ全部がピンク色に染まっていった。多くの友人知人たちが様々な場所でピンク色を身につけて集っている様子がシェアされ、その全貌が少しずつ明らかになっていった。

 昼になるころには、ワシントンDCでのウィメンズ・マーチの集会が実況中継され始め、それに合わせて、ニューヨーク、シカゴ、ボストンなど、東部の都市でも警官がフル動員され警備に当たる中、想像を絶する規模で集会が行われている映像が映しだされた。

 ありとあらゆる多様な市民が大挙して街の表通りに繰り出し、平和的に、しかしエネルギッシュにプラカードでありとあらゆるメッセージを主張しながら、口々に反ヘイト、女性として社会にコミットすることの意義、平和を希求することの大切さを訴えている。

トロントでも

 そして、トロントのテレビ局が地元でも行われている集会の中継を始めたとき、私は息を呑んだ。

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