フレデリック・フォーサイス 著 黒原敏行 訳
2017年04月13日
一気に読了。実に読み応えのある自伝だった。
『アウトサイダー――陰謀の中の人生』(フレデリック・フォーサイス 著 黒原敏行 訳 KADOKAWA)
父親の見事な生き方と一人息子への愛情。稀有なほどの恵まれた環境で、フォーサイスは多くの外国語をマスターし、持ち前の行動力で多くの場所を訪れる。恐ろしい経験もするが、この男のエネルギーは決して枯れることがなかった。この自伝の前半が特に目覚ましい。
また、やはりフォーサイスは傑出したジャーナリストだったことがわかる。
しかもその経歴を知ると、彼はエスタブリッシュメントに属する人間ではなかった。ある意味では、この自伝のタイトルが示すように、アウトサイダーであって、地方の名もないような新聞社からスタートして、やがて世界を股にかけた活躍をしたのである。そして何といっても、その基本にあったのは、彼のたぐいまれな好奇心と行動力だった。
その意味で本書の後半部で出色なのは「記憶」と題する章だろう。ビアフラの悲劇、惨状を世界に先駆けて報道し、母国イギリスの失敗を厳しく剔抉(てっけつ)する姿勢。そこに「アウトサイダー」に徹するフォーサイスの矜持を読み取ることができる。
もちろんフォーサイスの名前を世界に知らしめたのが『ジャッカルの日』(角川文庫)、『オデッサ・ファイル』(角川文庫)であることは言うまでもない。それ以後の作家としての人生を否定するつもりはないし、事実、以後の小説作品も優れた出来である。随分楽しませてもらったと、正直に告白しておく。
ただし、さらに正直に告白すれば、最近の作品は確かに華々しいけれども、もう一つ「滋味」に欠けるような気がする。何だかクライヴ・カッスラーに似ているような気がするのだ。筋立ては大仰だが、人間が見えてこない。
それはともかく、この自伝を読むとフォーサイスの真骨頂がやはりジャーナリズムの世界にあったことが、今さらながらよくわかる。そうしたフォーサイスの姿がよくわかる、それが本書の優れた魅力である。優れた翻訳でこの自伝を送ってくれた訳者の労に感謝したい(あえて瑕瑾(かきん)を申し上げると、地名の表記に首をかしげる箇所があった)。
というわけで、あとはジョン・ル・カレが自伝を書いてくれないか、願うことしきり。
*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。
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