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【公演評】ミュージカル『王家の紋章』

初演から大きくリメイク、美しくわかりやすい舞台に

中本千晶 演劇ジャーナリスト


拡大ミュージカル『王家の紋章』公演から=東宝演劇部提供

 4月8日に帝国劇場で幕を開けたミュージカル『王家の紋章』、昨年8月の初演から1年経たずしての再演である(大阪公演あり/梅田芸術劇場メインホール)。果たして初演版を踏襲するのか? それとも改変が加えられるのかが注目されたが、蓋を開けてみればリメイク版と言ってもいいくらい要所要所に手が加えられていた。

 脚本・演出の荻田浩一氏はこの点について「軽量化、軽便化への試みという流れ」(プログラムより)とコメントしている。その言葉のとおり枝葉末節なエピソードがカットされてスッキリ、全体的にわかりやすくなった。初演では3時間15分にわたった公演時間も2時間55分と短縮されている。

 今回が初観劇の人にとっては原作を知らなくとも入りやすいし、初演版を観た人も新しいバージョンとして楽しめる作品に仕上がっている。以下、印象が変わった点を中心にリメイク版『王家の紋章』の見どころを紹介していこう。

作品の基本的な対立構造がより鮮明に

拡大ミュージカル『王家の紋章』公演から=東宝演劇部提供

 このミュージカルは、細川智栄子あんど芙〜みん作の同名の人気漫画を舞台化したものだ。単行本は62巻まで発売され、今なお連載が続いている。この膨大な長編のうち、舞台化されたのは主に最初の4巻の部分。現代アメリカの少女キャロルと、古代エジプトのファラオ・メンフィスが3000年の時を超えて心を通わせるようになる経緯が1幕で描かれ、2幕ではメンフィスと敵対しながらもキャロルに想いを寄せるイズミル王子率いるヒッタイト王国との戦いが描かれる。

 まず感じたのが、全体がスッキリすることで、この作品に流れる基本的な対立構造がより鮮明になったということだ。そのひとつが「古代エジプト」と「現代アメリカ」の価値観の対立である。

 王が絶対で何でもあり、そして奴隷は人間扱いされない古代エジプト。対する現代アメリカは、個人の自由と基本的人権が尊重される世界だ。それぞれの価値観を体現する存在がメンフィスとキャロルであり、水と油ほどに相容れない2人が理解し合っていく様がこの作品の見どころである。したがって2人の対峙が鮮明に描かれるほどに、恋愛劇としての醍醐味も増すわけだ。

 そしてもうひとつが、エジプトと敵国ヒッタイトの対立だ。他のエピソードが削られた分、キャロルが鉄の重要性を明らかにするくだりが印象に残りやすくなった。そうすると鉄の製法を知る国ヒッタイトを敵に回すことの脅威も伝わってくる。ヒッタイトの王女ミタムンも単なる可哀想な女性に終わらず、彼女の変死が2幕での戦いの契機となっていく流れもよりわかりやすくなった。

◆公演情報◆
ミュージカル『王家の紋章』
2017年4月8日(土)~5月7日(日) 東京・帝国劇場
2017年5月13日(土)~31日(水) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
[スタッフ]
原作:細川智栄子あんど芙~みん
『王家の紋章』(秋田書店「月刊プリンセス」連載)
脚本・作詞・演出:荻田浩一
作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
[出演]
浦井健治、新妻聖子/宮澤佐江(Wキャスト)、宮野真守/平方元基(Wキャスト)、伊礼彼方、濱田めぐみ、山口祐一郎 ほか
公式ホームページ
★平方元基インタビューはこちら

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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