「LGBTに配慮したトイレ」という誤解と偏見
2017年04月24日
2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場に「男女共用トイレ」が設置されることが決定しました。報道(2017年2月26日付の朝日新聞)によると、異性の介助者による同伴が必要な障害者や、現状の男女別トイレは使用しにくいと感じているセクシャルマイノリティーに配慮したとのことです。
「男女二元論で考えるのではなく、なるべく細かなニーズに対応することが望ましい」という視点から考えれば、このような対策は歓迎するべき方向と言えるでしょう。今回は五輪会場のみということですが、将来的には「男性」「女性」「その他(≒男女共用)」という3つの区分で当たり前に設置される状況が望ましいと思います。
ですが、それだけでは対策が十分とは言えません。「性」は3分割できるほど単純なものではありませんし、価値観に関しても人それぞれですし、社会の偏見によって本来自分が望んでいる行動を取れないというケースも多々あります。それは決してセクシャルマイノリティーの人々に限らず、シスジェンダー(身体的な性とアイデンティティーの性が一致している状態)の人にも言えることです。
そこで今回は、セクシャリティーの多様性の観点から、公共トイレの設置と運営はどうあるべきなのかについて論じたいと思います。
まず、トイレの問題を考える前にセクシャリティーの複雑性に関して理解することが必要不可欠です。ところが、近年「LGBT」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)し始める中で、メディアでも不正確なケースが散見されます。たとえば、先述の朝日新聞の記事では「LGBTらに優しいトイレ 東京五輪に向け都が計画」というタイトルが付けられていました。
ですが、現状の男女別トイレに関して使用しにくいと感じている人の大半はトランスジェンダー(T)であって、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)は、現状の男女別トイレで基本的に問題がありませんから、ここで「LGB」という言葉を用いることは正確ではありません。
中国国内でしか起こっていない問題を「アジア人の間で起こっている問題」と表記されれば、日本人は違和感を覚えると思いますが、それと同じで主語が大き過ぎて関係の無い人々まで含んでしまっているのです。
これに関して、インターネット上では「ダイバーシティの問題で大手新聞社の中では先進的なはずの朝日新聞でもこのような誤用をするのか」と落胆する声が一部から上がっていました。ところが、2017年4月10日にも「LGBTに配慮じわり トイレに虹印・性別欄にその他……」という、同じく不正確なタイトルの記事が出されています。
確かにそれぞれの記事を見れば、記者が Gender identity(≒性自認)と Sexual Orientation(=性的指向)の区別がついていないわけではないことが分かります。おそらく、一般的な読者層にも知られてきた「LGBT」という言葉がわかりやすいと考えて、あえて用いたのでしょう。
ですが、近年「LGBT」が一種のブームのようになったことで言葉が独り歩きし、トランスジェンダーの問題でも同性愛の問題でも何でもまとめて「LGBT」と表記してしまう報道が散見され、それに辟易している人は少なくありません。これらは偏見が生まれやすい問題であることを考えれば、より慎重に厳密な表記をすることが望まれます。
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