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【ヅカナビ】花組全国ツアー『仮面のロマネスク』

「恋愛劇」かつ「歴史劇」、その重層的な魅力に迫る

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 

 3〜4月に行われた花組全国ツアー『仮面のロマネスク』、神奈川県民ホールでの公演を観ることができた。この作品は、フランス貴族社会における恋愛ゲームを描いたラクロの小説『危険な関係』が原作で、脚本は柴田侑宏。1997年雪組での初演(主演は高嶺ふぶき)に続き、2012年宙組中日劇場公演でも再演された。オリジナルミュージカルの中でも人気の高い作品のひとつである。

 昨年9月の花組全国ツアーでも上演されたが、全国ツアーで同じ作品を続けて上演することは珍しい。だが、主役の明日海りお以外のキャストはガラリと変わった。とくに、前回はトゥールベル夫人を演じていた仙名彩世が、この公演から新トップ娘役となり、真逆のタイプといってもいいメルトゥイユ夫人を演じるのが気になるところだ。

 初演から4度目の再演になる今回で、私自身もこの作品の魅力について改めて考えさせられた。折しも男女版『危険な関係』も10月にシアターコクーンにて上演されることが発表され、ますます気になる『仮面のロマネスク』。今回のヅカナビでは、そんな魅力再発見の経緯をたどってみよう。

「予定調和でない」新トップコンビに期待が

 ヴァルモン子爵、正直、私はこの主人公があまり好きではない。今回の公演で、その印象が覆ることを期待していたが、明日海パワーをもってしても残念ながらそこまでには至らなかった。女性を籠絡することをゲームのように楽しむ主人公に、同じ女性として生理的な抵抗感を覚えてしまうのだ。とくに「さあ、つぎはセシルだ」のくだりが好きになれない。これはタカラヅカとしての一線を越えてしまっているのではないかといつも感じる。

 その意味で、このヴァルモンという役をタカラヅカ的美学の中で見せるのは極めて難しい。そんな難役に敢えて2度もチャレンジする明日海の姿勢に興味を覚える。この役を契機に男役としてもう一皮むけようという強い意思を感じるのである。

 その興味が、本公演から新たに相手役を務めることになった仙名彩世によりさらに増幅された。彼女が演じるメルトゥイユ夫人もタカラヅカのトップ娘役が演じるヒロインのイメージを逸脱した難役で、どうしても初演の花總まりの印象が強い。前回の花乃まりあによるメルトゥイユもそのイメージを踏襲した強い女性だったが、仙名メルトゥイユはその路線とは一味違う役作りが興味深かった。一見はんなりと奥ゆかしい、だがその実はヴァルモンと同じく社交界でうまく立ち回る術を心得ている計算高い女性、自身の持ち味とも良く合った役作りをしてきて、さすがだと思った。

 この作品がお披露目となった明日海と仙名の新トップコンビだが、これが何とも不思議な印象だった。ひとことでいうと「予定調和ではない」のだ。この感じは、仙名の方が「トップ娘役候補」として育てられてきておらず、どちらかというと脇を固める重要な役どころを数多く演じてきているところから来ているのではないかと思う(事実、彼女は新人公演のヒロインを1度も経験していない)。だが、この違和感が刺激的で心地よく、そこでまた「トップとしてもう一段階飛躍したい」という明日海の心意気も感じるのだ。次回大劇場作品で、このトップコンビがどんな芝居を見せてくれるのか、大いに期待したいと思う。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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