2017年05月09日
東京・有楽町の書店をのぞいたら、酒井順子氏の『子の無い人生』(KADOKAWA)が売れているという。一方で、妊活系の本が並ぶコーナーも少し離れた場所にあった。
私が疑念を抱くようになったのは、過去、不妊治療で、2人の子どもを授かった女性に会って話を聞いたことも大きい。
ナオミさん(仮名)は、治療で子どもを授かってからの20年間、ずっと悩み続けてきたという。
「不妊治療って、大前提として、今ここにある自分に対してNGを出す行為なんです。子どもができない身体なら、それでいいはず。眼鏡をかけている人に対して疑問に思うことはないのに、子どもがいない人に対して、なぜ疑問を感じるのでしょうか」
と、社会全体に対して、疑問を呈した。
ひとり目を授かった時は、人工授精だったこともあり、実際に育児の辛さを体験しても、そこまで追い詰められなかったという。
しかし、2人目を顕微授精で授かる過程で、自分は「神様の領域」に踏み込んでしまったのではないかと考えるようになった。
ナオミさんは、胚移植をしたのだが、今は「最大でも原則2個までしか受精卵を戻してはいけない」という日本産科婦人科学会の「倫理規定」(ガイドライン)がある。しかし、ナオミさんの時代には、病院側が任意で戻す数を決めていたという。ナオミさんは、10個もの受精卵を戻した。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式だったんでしょう」
と、うつむいた。
移植後の最初の検診で、担当医師から、「おめでたかもしれません」と、告げられ、喜んだのもつかの間、翌週には、「心臓が二つ見えるから、双子ちゃんかな?」と言われ、一気に子どもが3人に増えるのか、大変だけど、なんとかなるだろうと、その時点では考えたという。
だが、その翌週の検診後、担当医師の顔色は、やや青ざめていた。
「心音が三つあるので、恐らく三つ子ちゃんでしょう。多胎妊娠です」
その時、ナオミさんにあった選択肢は「全員産むか、全員堕ろすか」だった。
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