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[17]私は「わが子殺し」なのか「遺族」なのか

横田由美子 ジャーナリスト

 東京・有楽町の書店をのぞいたら、酒井順子氏の『子の無い人生』(KADOKAWA)が売れているという。一方で、妊活系の本が並ぶコーナーも少し離れた場所にあった。

不妊治療不妊治療で辛い選択をした女性たちをサポートするシステムが求められる(写真は本文と関係ありません。一部加工しています)
 前稿(「[16]高齢処女と高齢童貞が不妊治療をする時代」)で、「生命の倫理」について少し書いたが、“産み時を逃した女性たちが、妊活して、頑張って、子どもを持つ”ということが持て囃(はや)されている風潮に、私は、最近の取材の中で、少し疑念を持つようになっていた。酒井氏の本が売れているのは、私と同じように、どこか引っかかりを持つ女性の心に響いたからではないだろうか。

「全員産むか、全員堕ろすか」

 私が疑念を抱くようになったのは、過去、不妊治療で、2人の子どもを授かった女性に会って話を聞いたことも大きい。

 ナオミさん(仮名)は、治療で子どもを授かってからの20年間、ずっと悩み続けてきたという。

 「不妊治療って、大前提として、今ここにある自分に対してNGを出す行為なんです。子どもができない身体なら、それでいいはず。眼鏡をかけている人に対して疑問に思うことはないのに、子どもがいない人に対して、なぜ疑問を感じるのでしょうか」

 と、社会全体に対して、疑問を呈した。

 ひとり目を授かった時は、人工授精だったこともあり、実際に育児の辛さを体験しても、そこまで追い詰められなかったという。

 しかし、2人目を顕微授精で授かる過程で、自分は「神様の領域」に踏み込んでしまったのではないかと考えるようになった。

 ナオミさんは、胚移植をしたのだが、今は「最大でも原則2個までしか受精卵を戻してはいけない」という日本産科婦人科学会の「倫理規定」(ガイドライン)がある。しかし、ナオミさんの時代には、病院側が任意で戻す数を決めていたという。ナオミさんは、10個もの受精卵を戻した。

 「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式だったんでしょう」

 と、うつむいた。

 移植後の最初の検診で、担当医師から、「おめでたかもしれません」と、告げられ、喜んだのもつかの間、翌週には、「心臓が二つ見えるから、双子ちゃんかな?」と言われ、一気に子どもが3人に増えるのか、大変だけど、なんとかなるだろうと、その時点では考えたという。

 だが、その翌週の検診後、担当医師の顔色は、やや青ざめていた。

 「心音が三つあるので、恐らく三つ子ちゃんでしょう。多胎妊娠です」

 その時、ナオミさんにあった選択肢は「全員産むか、全員堕ろすか」だった。

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