林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
イベントの成功は、運営する内部の人間の手腕や努力にかかっている。とはいえ、ある程度の規模のイベントの場合、それを受け入れる自治体や地元企業、住民からの支持や連携、協力がないと続かないだろう。
どんなに立派な家屋を建てても、支える土台が危ういと、地盤沈下を引き起こしかねない。
だとすれば、カンヌ映画祭という世界最大級の文化イベントを受け入れる「カンヌ市」の存在にも、今一度注目する価値がありそうだ。
最近、ちょうどカンヌ市の個性について考えさせられた文化ニュースが流れた。
それは来年2018年から、国が助成金100万ユーロ(約1億2000万円)を出してバックアップするTVドラマ祭の開催地が決定したというもの。
近年、世界的にTVドラマの人気が高まっているのは周知の通り。ベルリン、トロント、サンダンスといった大規模な映画祭もTVドラマを積極的に紹介している。
わりに「映画」のフォーマットにこだわってきたカンヌでさえ、いよいよ今年はデヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」、ジェーン・カンピオンの「トップ・オブ・ザ・レイク」といった人気TVシリーズの新作を目玉上映として前面に据えた。もう世界のトップ映画祭も、TVドラマの存在を無視できなくなっている。
加えてTV番組を主軸に据えたフェスティバルも、パリ市や郊外のフォンテーヌブロー、南西のラ・ロシェル、モナコのモンテ・カルロなど国内外に散見できる。
だが現時点では「映画におけるカンヌ」のように、海外まで名を轟かせられる決定的な存在のTVドラマ祭は、まだ誕生していない。
そのためフランスは、他国で同種のイベントが巨大な力を持ってしまう前に、世界に誇れるTVドラマ祭を立ち上げ、手厚いサポートをすることに決めたのだ。去る3月24日にフランスのオードレ・アズレ文化・通信大臣は、開催場所を北の町「リール」に決定したと正式発表した。
ノール県リール市は、ベルギーとの国境近くにあるフランス最北の地。もとは炭鉱や繊維産業で知られた工業都市。近年は文化都市として発展を続ける。パリから列車で1時間。ロンドンや欧州の中心ブリュッセルからも近く、地の利が良いのが魅力だ。
実はカンヌ市もリール市と同様に、このTVドラマ祭の開催を希望しており、政府の助成金を申請していたが、残念ながら選に漏れた。だが興味深いのは、カンヌのダヴィッド・リスナール市長が、負けを認めていないこと。
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