2017年05月31日
いくら周囲が「注意喚起情報」を伝えても、妊活まっただ中にいる夫婦――特に妻の側には、そうした声を聞く余裕などない。それを強く実感させられた出来事があった。
「やっぱり、子どもを授かることが出来なかったからですか?」
と尋ねると、しばし言い淀んだ後に、予想もしていなかった答えを返してきた。
「(子どもは)出来たのですが、中絶しました。なんていうか、燃え尽きちゃったんです」
姑の過干渉が始まったのは、結婚直後からだったという。さりげなく、ハナさんの生理周期を聞き出し、排卵日直前になると、
「そろそろだから、頑張ってね」
と、携帯に応援メールが入るようになった。
しかし、1年が過ぎても妊娠の兆しは全く見えない。姑の態度が威圧的になってきたのはこの頃からだ。ある日、「会社の近くまで来た」という姑から、ランチに誘われた。そして、
「1年以上も経っているのに何の兆候もないのはおかしいから、一度、医者に診てもらったら? 考えてみればあなたもいい歳だし、治療が必要な身体なのかもしれないわね」
と、面と向かって言われた。さらに追い打ちをかけるように、
「いくら稼ぎのいい嫁でも、子どもがつくれないんじゃ、親戚にも友人にも恥ずかしくて会えないの」
とまで言われた。
それまで築いてきたキャリアだけでなく、自分の人格まで全否定された“ポンコツ車”のような気になったとハナさんは怒りをこめる。
ハナさんは超一流大学を卒業し、外資系金融機関で働いていた。夫も同業者で同い年。仕事のサイクルもほとんど一緒。平日は、早朝から深夜まで働き、土日はしっかり休む。年収は1000万円を軽く超え、独身のままでも、生活には何の支障もなかった。しかし、学生時代の友達が次々と結婚を決めていくと、途端に自分が取り残されているような焦りを感じた。
「私自身“傲慢”だったのだと思います。他人に出来て自分に出来ないことは何もないと思っていましたから」
結婚後を深く考えることなしに、彼氏にプロポーズを促したのはそのためだ。結婚で収入は倍増、都心の高級マンションで、それまで以上にスタイリッシュな生活を送る予定だった。だが、つきあっている時は“二人だけの世界”で良かったのが、結婚によって一変した。
そうしてハナさんは、生まれて初めて、努力だけではどうにもならないことがある、ということを知る。姑の手前、渋々だが婦人科検診に行くと、「卵巣嚢腫」であることを告げられたのだ。
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